同じ距離を飛行するにも関わらず、日本から太平洋を横断してアメリカ・ニューヨークへ向かう時間、ニューヨークから東京へ向かう時間とでは、おおよそ1時間ほど違います。
その理由は、地球全体で吹いている「風」にあります。
東京大学非常勤講師の左巻健男さんが、著書『面白くて眠れなくなる地学(PHP文庫)』(PHP研究所刊)から一部抜粋してご紹介します。
地球全体で吹いている3つの風
地球には、地表や上空を季節に関係なく常に吹いている風が3つあります。
1つは、赤道付近(低緯度地域)を吹く「貿易風」です。もう1つは、極近く
(高緯度地域)を吹く「極風」(きょくふう)——「極偏東風」(きょくへんとうふう)——です。残りの1つが、その間の中緯度地域を吹く「偏西風」です。
このうち偏西風は、その名の通り西から吹く(西よりの)風で、他の2つは東から吹く(東よりの)風です。日本の国土の多くは中緯度(30〜60度)にあるので、偏西風の吹く地域です。
※1 自転の影響で物体にはたらく「慣性の力」。「コリオリ」はフランスの物理学者G・G・コリオリに由来) 本書P130頁より
引用・左巻健男[著]『面白くて眠れなくなる地学』PHP研究所
「偏西風」は、赤道近くの暖かい空気と、南極や北極近くの冷たい空気との温度差で起こります。赤道近くの暖かい空気が上昇して北極や南極に向かうとき、地球の自転によって生じる「コリオリの力」(※1)で進路がずれて、西から東への風向きになるのです。
風が天気にも大きな影響を与える?
これら3つの風は世界全体を吹く大きな風なので、天気にも大きな影響を与えています。
日本付近は偏西風の吹く地域なので、天気は西から変化します。天気予報で「天気は西から下り坂です」とか「天気は西から回復するでしょう」などと耳にしたことがあるのではないでしょうか。
高気圧や低気圧が移動する速さは、1日およそ1000キロメートルです。例えば東京の明日の天気を知りたいと思ったら、約1000キロメートル離れた福岡の今日の天気を調べればよいのです。
連続的に天気図を見れば、高気圧、低気圧の形が変わることはあっても、すべて西から東へ動いていることがわかります。
飛行機で偏西風を実感
偏西風は、冬に強くなり、夏には弱まります。対流圏(たいりゅうけん)の上層8〜16キロメートル付近に見られますが、高度が上がるとともに風速が増し、対流圏と成層圏の境あたりでは最速の西風になります。
この風を「ジェット気流」といい、風速は毎秒100メートルを超えることがあるほどです。
飛行機に乗ると、偏西風の存在を実感できます。飛行機にとって空気の抵抗は大敵ですから、できるだけ空気のうすい層を選んで飛びます。そうもいかないとき、偏西風のような風に乗って進む場合と逆らって進む場合ではどのような影響を受けるのでしょうか。
例えば成田空港から出発して太平洋を横断し、ニューヨークへ向かうときは、ちょうど東向きに吹く偏西風に乗って飛びます。フライトに要する時間は、およそ13時間です。一方、同じ経路でニューヨークから成田空港に戻るときは、偏西風の向かい風になるのでおよそ14時間要します。
同じ距離と経路でも、往路と復路では1時間も違ってしまうのです。もちろん、飛行機が飛ぶコースは日によって異なりますし、偏西風も強さや流れる場所が変わりますが、それでも少なからず偏西風の影響はあります。
国内線の羽田─福岡間に乗ってみても、やはり東に向かう飛行機は早く着くのです。
紹介した本はコチラ
タイトル:
面白くて眠れなくなる地学
(PHP文庫)
著者:左巻健男
出版社:PHP研究所
定価:825円
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著者プロフィール
左巻健男(さまき・たけお)
1949年生まれ。栃木県出身。東京大学非常勤講師(理科教育法)。
千葉大学教育学部(理科)卒業。東京学芸大学大学院修士課程修了(物理化学・科学教育)。中学・高校の理科教諭を26年間務めた後、京都工芸繊維大学教授、同志社女子大学教授、法政大学教授を歴任。2019年より現職。専門は理科教育(科学教育)・科学啓発。
『面白くて眠れなくなる物理』『面白くて眠れなくなる化学』『面白くて眠れなくなる理科』(以上、PHP文庫)、『新しい高校地学の教科書』『新しい高校化学の教科書』(以上、講談社ブルーバックス)、『絶対に面白い化学入門 世界史は化学でできている』(ダイヤモンド社)など単著・編著多数。