前回記事「山はどうやって山になる」では、山には「噴火で地表に流出した溶岩が積み重なって高くなった山」と「地面にしわが寄ってできた山」の2つがあるとご紹介しました。
世界でもっとも高いヒマラヤ山脈のエベレストは、大昔は海底にあり、地殻変動――つまり、「地面にしわが寄ってできた山」――によって今の高さになったといわれています。それでは、どのくらいの年月をかけて、8848メートルにもなる今の高さになったのでしょうか。
東京大学非常勤講師の左巻健男さんの著書『面白くて眠れなくなる地学(PHP文庫)』(PHP研究所刊)から一部抜粋してご紹介します。
エベレスト山頂に海底の痕跡
世界でもっとも高いヒマラヤ山脈の最高峰であるエベレストは、 8848メートルです。山頂付近には、登山家がイエローバンドと呼んでいる地層があり、黒い岩尻にくっきりと黄色味をおびた帯のようになっています。イエローバンドの正体は、変成した「石灰岩」です。
この石灰岩は、ウニの仲間であるウミユリなどの生物からできたもので、中には化石も含まれています。イエローバンドを含む地は、約3億年前に広がっていたテーチス海の底でつくられました。そのとき海洋底でできた地層が、今は8000メートル近い山の上にあるのです。
気が遠くなるほどの時間をかけて
テーチス海は、現在のヒマラヤ一帯からヨーロッパアルプスまで続いていました。数千万年前から、ヒマラヤ、アルプス一帯が隆起しはじめ、山々になる大陸が海から出現したのです。
年にたった1ミリメートルしか隆起しなくても、数千万年も経てば、数万メートルになるはずです。実際は、隆起する過程で雨風や河川などによって激しく侵食されるため、隆起と侵食のバランスで山の高さが決まるのです。
隆起はどのようにして起こるのか
隆起は、インド亜大陸やユーラシア大陸のような、とてつもなく大きな陸地を動かすプレートの運転によって起こります。陸地は、地球表面を覆う厚さ数十~百数十キロメートル程度の分厚い岩石からなる十数枚のプレートにのっており、ベルトコンベアのように1年間に数センチメートル程度の速さで移動しています。
左巻健男『面白くて眠れなくなる地学』PHP研究所
つまり、ヒマラヤ山脈は、もともとインド亜大陸を乗せたプレートがユーラシアプレートに衝突し、その間にあったテーチス海に堆積していた地層が、現在の高さまで上昇してできたと考えられています。しかもこの上昇は、今も続いています。
紹介した本はコチラ
タイトル:
面白くて眠れなくなる地学
(PHP文庫)
著者:左巻健男
出版社:PHP研究所
定価:825円
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著者プロフィール
左巻健男(さまき・たけお)
1949年生まれ。栃木県出身。東京大学非常勤講師(理科教育法)。
千葉大学教育学部(理科)卒業。東京学芸大学大学院修士課程修了(物理化学・科学教育)。中学・高校の理科教諭を26年間務めた後、京都工芸繊維大学教授、同志社女子大学教授、法政大学教授を歴任。2019年より現職。専門は理科教育(科学教育)・科学啓発。
『面白くて眠れなくなる物理』『面白くて眠れなくなる化学』『面白くて眠れなくなる理科』(以上、PHP文庫)、『新しい高校地学の教科書』『新しい高校化学の教科書』(以上、講談社ブルーバックス)、『絶対に面白い化学入門 世界史は化学でできている』(ダイヤモンド社)など単著・編著多数。