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【ニュースがわかる2024年5月号】巻頭特集は10代のための地政学入門

読書家の父娘が語る「本」の話②~本は生きもの~ 【ニュースがわかるの本棚】

好評だった前回の記事「読書家の父娘が語る「本」の話 ~読書の効能~」に引き続き、読書家の父娘が「読書のよろこび」を語りつくした対話集『ぜんぶ本の話』から一部を抜粋し、ご紹介します。

娘・池澤春菜 わたしも子どもの頃、やっぱり世の中になじめなかったの。いじめられっこだったし。本ばかり読んでるからいじめられるのか、いじめられるから本ばかり読んでたのか、わからないけど(笑)。とにかく誰とも話が合わなかった。外で遊ぶのも苦手。家の中で本を読んで、読んだ本について大人と話すほうが気が楽。そんな子だったから、外界のものを自分の中に入れたくない。本とわたしがあればいい。

それ以外のものはいらないと本気で思っていた。今でもちょっとそうかもしれない。つらいことがあっても、最後は本の中に逃げ込める。読み始めるとバタンと扉を閉ざしてしまう。また外に出なきゃいけないことはわかっているけど、これから二時間だけは閉じた世界で本を読んでいられる。それはかけがえのない時間。そういう安全領域を自分の中に持っていたおかげで、いろいろなことがしのぎやすくなったし楽になった。

父・池澤夏樹 でも読書って自分自身は本に向かって開かれているんだから自閉ではないんだよ。

春菜 他閉?

夏樹 いや、自開だね。自ら開く。本にたいしては開かれている。本は人間と同じように生きものなんだから。人とつきあうように本とつきあうことができる。

池澤夏樹 池澤春菜 ぜんぶ本の話 毎日新聞出版
写真・毎日新聞出版


春菜 パパやママに「外で遊びなさい」と言われることはなかったけど、それ以外の大人たちからは「外に出てお友だちを作りなさい」とさんざん言われました。でも私は本の中で世界中を旅していたし、不思議の国にさえ行ってた。だから、「そこでもう友だちを作っているのに、なぜ話の合わない友だちをこちら側で無理して作らなきゃいけないの?」と思っていた。

「わたしにはこんなにたくさん友だちいるよ」って。そんなふうに逃避が必要な子どもって、いつの時代でも必ずいる。本に触れることで救われる子、現実のつらさをやりすごせる子、壊れそうになる心をせきとめて、現実に立ち向かう力を持てる子。彼らは本に触れる機会がなければ壊れちゃうかもしれない。だから、家にこもって本を読みふける子どもを、親はできるだけ静かに見守ってほしいとわたしは思います。

夏樹 読書は自閉的な行為じゃないからね。本を読みふける子どもを、親は信じていい。本とのつきあいはこちらの主体がいる。そこがゲームとは違う。読書は主体的、能動的な行為だけど、ゲームは目先の運動神経と快感で動いていくから、主体性は薄いと思う。

春菜 頭で考えるよりも瞬間ごとの判断で動くから、戦略はあってもそれが自分の中に蓄積はしない。ゲームはどちらかというと反射神経の世界かなあ。

夏樹 あまりくわしくないから、断言するのははばかられるけど。でも誰かが作った枠の中で、その内部のルールにそってプレイするのがゲームと考えれば、そう言えるよね。

続きは10月23日に配信予定です。

  

紹介した本はコチラ

タイトル:
ぜんぶ本の話
著者:池澤夏樹、池澤春菜
出版社:毎日新聞出版
定価:1,760円

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著者プロフィール

父・池澤夏樹(いけざわ・なつき)

1945年生まれ。作家、詩人。小説、詩やエッセイのほか、翻訳、紀行文、書評など、多彩で旺盛な執筆活動を続けている。また2007年から2020年にかけて、『個人編集 世界文学全集』、『個人編集 日本文学全集』(各全三十巻)を手がける。著書に『スティル・ライフ』、『マシアス・ギリの失脚』、『池澤夏樹の世界文学リミックス』、『いつだって読むのは目の前の一冊なのだ』など多数。

娘・池澤春菜(いけざわ・はるな)

1975年生まれ。声優・歌手・エッセイスト。幼少期より年間300冊以上の読書を続ける読書狂。とりわけSFとファンタジーに造詣が深い。お茶やガンプラ、きのこ等々、幅広い守備範囲を生かして多彩な活動を展開中。著書に『乙女の読書道』、『SFのSは、ステキのS』、『最愛台湾ごはん 春菜的台湾好吃案内』、『はじめましての中国茶』、『おかえり台湾』(高山羽根子との共著)などがある。