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中学入試エキスパート座談会 ~首都圏中学入試2023年春を振り返る~

◆受験生数も受験率も最高に 「コロナ後」も衰えない人気

 2023年首都圏中学入試は、受験生数と受験率がともに過去最高だった。先行き不透明な時代に対応が可能な私立校の教育に期待が高まっているのだ。今年の入試総括と今後の展望について、エキスパート5人に話を聞いた。(「サンデー毎日 2023年 5/7・14合併号」より)

 ◇日能研本部ディレクター『進学レーダー』編集長 井上修さん/四谷大塚情報本部 本部長 岩崎隆義さん/市進学院学校情報室 野澤勝彦さん/サピックス教育情報センター本部長 広野雅明さん/安田教育研究所代表 安田理さん

――23年首都圏中学入試はどのような状況でしたか。

岩崎 22年の1都3県(東京、神奈川、埼玉、千葉)の小6生数は29万4574人で21年より減りましたが、中学入試の受験生数は増加しました。四谷大塚の集計では、前年比約1200人増の約5万4700人。受験率も0・5ポイントアップの18・6%で、受験生数・受験率ともに、過去最高記録を更新しました。
井上 日能研では、公立中高一貫校を含めた受験生数を約6万6500人とみています。受験率は過去最高の22・6%。主に私立校の受験生が増えました。
岩崎 受験生が増えたのは、低学年から塾に通う人が増えていることも理由の一つです。また、コロナ禍での公立校の対応への不安から私立校が注目を集め、その期待感が続いていることも、私学人気につながっています。
安田 今はSTEAM(Science Technology Engineering Art Mathematics)教育やグローバル教育、探究学習、SDGs(持続可能な開発目標)への取り組みなど、多くの保護者が公立校にはない教育を求めて私立校を選んでいます。ただ、同じように塾通いをしていても、早くから大手受験塾に通って難関校を目指す人もいれば、習い事を小6まで続けた上で、無理せずに合格できる学校を選択する人もいます。受験スタイルが多様化してきましたね。
野澤 市進教育グループには集団指導と個別指導の両方があり、中学を受験する児童の多くが集団指導部門に所属しています。ところが、23年入試では個別指導部門でも中学受験する児童が増えました。彼らは、一般的な併願スケジュールを組まず、自分に合ったスタイルで受験する傾向がみられます。例えば12月1日から始まる千葉の第1志望入試を目指して勉強し、1月以降の一般入試は受けない人もいます。
広野 比較的合格しやすい第1志望入試しか受験しない子どもも増えていますね。なかでも、二松学舎大付柏や西武台千葉などのようにキャンパスが広く、雰囲気が良い学校は一定の人気があります。
安田 受験スタイルが多様化する中、大手塾の模試を受けない子どもも増えています。そのため学校の中身をよく知らないまま志望校として選択するケースもあるようです。話題校ばかり受け、残念な結果で終わる子どももいます。
広野 今回は、午後入試の受験率がさらに高まりました。数年前までは女子校や共学校で実施校が多く、女子の受験率が高かったのですが、男子校でも実施校が増えて男女差がなくなってきました。最近は、2月前半日程入試で合格者の歩留まりが良く、後半日程では合格者数が絞られて厳しい入試になる傾向が顕著です。早く合格を得るために午後入試を併願する人が増えています。

サンデー毎日 2023年 5/7・14合併号

――1月入試の状況は?

野澤 コロナ禍で東京や神奈川からの受験生が減っていましたが、人気校を中心に戻りつつあります。埼玉の栄東は前年比約1650人増の約1万3800人の志願者を集めました。また、ここ数年東京と神奈川が中心の2月入試で厳しさが増していますので、1月入試では確実に合格できる学校を選択する安全志向が強まりました。開智では、1月10日の先端1入試の志願者は増えましたが、上位学力生が受ける同11日の先端特待入試は減少しました。浦和実業学園などの中堅校も人気を集めました。
岩崎 埼玉栄も志願者が増えて難化しました。栄東や大宮開成、千葉の専修大松戸などは東京からの通学生が増えています。上位校に限らず、東京から通いやすい地域の学校は人気が高まっています。
安田 立教新座や淑徳与野、武南、西武台新座もそうですね。
野澤 コロナ禍で減少傾向が強かった千葉の学校は、全体的に志願者が増えています。市川の人気が復活しました。
安田 市川はグラウンドや体育館などの施設が充実しています。進学校でありながら、哲学など教養を深めるセミナーを行っており、教育の総合力が高い学校です。
井上 麗澤も人気を集め難化しました。先進的な取り組みをしているSDGs研究会など、バランスの良い教育が評価されています。
野澤 光英ヴェリタスは21年に共学化した学校改革以降、志願者が増加していましたが、今年は減少しました。ただ、特待生狙いの受験生が減っただけで、変わらずに高い人気があります。
広野 キャンパスが広く、部活動もしやすいですし、礼法など伝統的に受け継がれてきた良質の教育も受けられる。そういう環境を求めている家庭にとって、志望順位が高い学校ですね。
野澤 今年4月に中学校を開校した流通経済大付柏は、827人の志願者を集めました。さらに周辺地域でも、志願者が増えた学校が多くありました。中学受験率が高くないエリアに開校しましたが、中学受験への意識を高める効果があったようです。
井上 流通経済大付柏の校舎はラーニング・コモンズや生徒同士が学び合う図書館など、千葉ではあまり見られなかった最先端の施設が充実しています。周辺には東大や千葉大、東京理科大のキャンパスがあるアカデミックタウンにあります。人口が増えているつくばエクスプレス沿線の柏の葉キャンパス駅からもスクールバスで通いやすい立地なので、今後も人気が続きそうです。
岩崎 地方にあり、寮を持つ学校の首都圏入試では、盛岡市の盛岡白百合学園の志願者が増え、難化しました。
井上 寮のある学校を進学先として選ぶ家庭も増えていますね。不二聖心女子学院(静岡県裾野市)や静岡聖光学院(静岡市)、北嶺(札幌市)も安定した人気があります。

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