【ニュースがわかる2024年11月号】巻頭特集は世界が注目! アメリカ大統領選

スクールエコノミスト2024 WEB【東京農業大学第一高等学校中等部編】

スクールエコノミストは、私立中高一貫校の【最先進教育】の紹介を目的とした「12歳の学習デザインガイド」。今回は東京農業大学第一高等学校中等部を紹介します。

学校はいろいろな社会を作り出す空間。新校舎と中高大連携が開く新たな教育

<注目ポイント>

①2023年、2025年に新校舎が完成。共創し、新たなステージへ

②実験や観察を重視した授業で、知を深めチャレンジ精神を養う

③隣接する東京農業大学との連携により、国際交流の機会が盛ん

新校舎完成で実学教育がさらに充実

 東京農大一中が教育環境整備の一環として建設を進めてきた新校舎が2023年11月に完成した。「知耕実学」を教育理念に掲げ、実学教育に力を入れてきた同校。主要5教科だけでなく、実技教科も重視しており、新校舎の完成によって、美術室や技術室、音楽室などの特別教室が刷新。加えて、自習や生徒同士の自由な議論、ゼミ形式の講義など、学び合いができる場としてラーニングコモンズが新設された。

 新校舎プロジェクトの準備期間は、折しも新型コロナ禍の頃。学校現場でも活動の自粛をせざるを得ない時期だった。同校の入試広報部長の川崎剛教諭は次のように話す。「オンライン授業にも慣れてきた頃、生徒が言ってくれたのです。『授業はこの先もオンラインでいいかもしれないけれど、学校には来たい』と。それを聞いて、そもそも学校にはどのような意義があるのだろうかと、教員同士で改めて考えました」。

 そうして導かれた答えは、学校はいろいろな社会を作り出す空間であるべきだということ。「学校は教育を行うだけでなく、社会性を身につける場であると捉えています。生徒にとっての社会とは、クラスや部活動もそうですし、ゼミ活動のように志を共にする生徒が集まれば、そこにも新たに一つの社会が出来上がる。新校舎はコミュニケーションを取りやすく、深い学びにつなげられることを目指した」と、川崎教諭は話す。

 例えば、学びや成果を他者と交換できるように新校舎では美術室前の廊下に生徒や卒業生の作品の展示スペースを設けた。近年、ビジネス界ではアート思考が注目されているが、作り手だけでなく、見る人にも刺激を与える、まるで美術館のような場が生まれた。

 開放的な雰囲気のラーニングコモンズにはプロジェクターや可動式のデスクなどを設置し、共同学習をはじめ、様々な活動に対応可能。個別ブースを備えた自習室もあり、いずれのスペースも生徒は自由に活用できる。放課後ともなると自然と生徒が集まり、一人で自習をする生徒、グループワークに取り組む生徒など、思い思いに学びや経験を深める時間を過ごしている。

実学教育を体現する新校舎

教科書以上のことを学ぶ理科教育

 現在は2025年度の完成を目指し、新校舎の第二期工事が進行中。地下1階、地上3階の建物には、ホールや図書館のほか、理科の実験室が完備される。イメージは「博物館の中にある教室」だ。理科教育は同校の強みの一つ。これがさらにパワーアップする。

 これまでも同校では本物に触れる機会を大事に授業を展開してきた。体験重視の実学教育は日頃の学び方にも現れており、中1の1年間の理科の授業のうち、およそ半分は実験や観察にあてられている。川崎教諭は「本校では医学に興味を持つ生徒も増えています。実験で解剖を怖がる生徒もいますが、まずは白衣をきちんと着ること、道具を正しく扱うことに始まり、解剖する個体を自分たちと同じ生き物だと捉えることを促すなど、知識を得るだけでなく、心構えを養うことも大切にしています」と、話す。