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【ニュースがわかる2024年5月号】巻頭特集は10代のための地政学入門

中学入試エキスパート座談会 ~首都圏中学入試2023年春を振り返る~

◇新校舎や新たな教育でイメージ刷新の伝統校

――東京や神奈川で伸びた学校はどこでしょうか。

広野 男子は開成や海城、早稲田の志願者が増えました。これらの学校の共通点は新校舎です。最新の設備がある理科室や生徒が自由に使えるスペースなどを備えた新校舎は、今の保護者にとって注目度が高い。予測不可能な時代でも活躍できる力を身につけられると期待を寄せています。
安田 コロナ禍では安全志向が強かったですが、今年は東京・神奈川とも、より上位の学校を目指す傾向が見られました。神奈川では聖光学院、栄光学園、逗子開成の志願者が増えました。
広野 逗子開成は海が目の前にあり、遠泳実習などの独自の海洋教育を行っています。校内は開放的な雰囲気があります。コロナ禍で閉塞(へいそく)していた状況を経験し、そういう環境に魅力を感じる人が多かったのでしょう。また、本郷や巣鴨、城北など、堅実な教育を行う学校の人気も続いています。
岩崎 難関女子校では、桜蔭の志願者が増えました。女子学院はやや減少。渋谷教育学園渋谷などの共学校を選択した受験生が多かったのだと思います。
井上 豊島岡女子学園も微減でしたが、チャレンジ層が減っただけで、難度はむしろ上昇傾向です。
岩崎 共学校では、広尾学園小石川は22年より志願者が減ったものの、依然として人気があり、難度もアップしています。

――注目を集めた学校は。

広野 東京都市大付が入試日程を変更し、2月1日の午前入試を新設しました。トータルの志願者数は減りましたが、レベルの高い受験生が集まりました。また、東京都市大付が抜けた同2日は多くの男子校で志願者が増えました。
野澤 足立学園が入試回数を増やし、志願者が大きく増えました。実際に学校に行くと雰囲気の良さが伝わりますし、最寄りの北千住駅から徒歩1分と駅から近いのも魅力です。
安田 佼成学園も人気がアップしています。グローバルコースの生徒が校外のさまざまなコンテストで入賞するなど、生徒の活躍も目覚ましいものがあります。
岩崎 山脇学園や三輪田学園、実践女子学園などの伝統女子校はイメージが刷新され、今の時代に合わせた教育を工夫しながら行っていることが伝わり始め、人気が続いています。
安田 光塩女子学院や晃華学園、湘南白百合学園、カリタス女子など、多くのカトリック系の女子校の志願者が増えたのも、教育内容が変わってきたことが知られてきたからだと思います。説明会に参加し、他校では聞けないような校長先生の話が心に響くこともあるようです。
井上 校内に生徒が自由に使える学びの場がある学校や、広報活動にSNSを活用し、さまざまな内容を発信している女子校は人気を集めています。
岩崎 共学校では、駒込や日本工業大駒場、横浜創英などの人気が上がっています。
広野 今年4月に共学化して東京女子学園から校名変更した芝国際は志願者が殺到しました。
井上 同様に目黒星美学園から校名変更し、女子校から共学校に移行したサレジアン国際学園世田谷も多くの志願者を集めました。
岩崎 26年に明治大の付属校となり、共学化して明治大付世田谷に校名変更する予定の日本学園は、23年の入学者から明治大への内部進学の対象になるため、志願者が大幅に増えました。
野澤 十文字も志願者が増えました。地道な広報活動の効果が出てきましたね。女子サッカーの強豪校でもあり、元気がある校風も魅力です。また、京華女子も全部の入試回で志願者が増えました。24年から京華、京華商業との3校合同キャンパスがスタート。注目が集まりそうです。
広野 コース制を廃止した安田学園も志願者が増えました。コース改革も、人気アップのキーワードのひとつになっています。
野澤 安田学園は下町情緒が残る場所にあり、旧安田庭園や両国国技館など、緑と文化施設に囲まれています。周辺環境がいいことも人気に結びついています。
岩崎 安田学園に隣接している日本大第一も人気でした。人口が増えているエリアが近いので、その影響があります。
井上 かえつ有明は帰国生が多く、教育プログラム全体がアクティブラーニング形式で生徒同士が自由に勉強する環境が整っています。学校全体がラーニングコモンズのような雰囲気があります。
広野 海城や東京都市大付などもそのような雰囲気があります。一般的に帰国生が多い学校は、学校全体が活性化している印象です。

◇文理で縮む男女の「差」 「高大連携」も選択肢に

――理系に強い学校や、高大連携に積極的な学校が人気です。

安田 日本はデジタル化が遅れており、理系に強い人材が求められています。我が子を理系に進ませたいと考える保護者が増えているのも、そういう時代状況を肌で感じているからだと思います。
井上 東京都市大や芝浦工業大、東京電機大、工学院大といった理工系の大学は施設が充実していますし、就職実績も好調です。これらの大学の付属校は、軒並み人気が高まっています。
岩崎 今のところ、入試の難度が高すぎず受けやすいことも、選ばれている理由のひとつです。
広野 理系の進学先として、医学部だけでなく、理学や工学を選択する女子が増えています。文系・理系の男女差がどんどんなくなってきています。
安田 理工系に進学する女子は、以前は桜蔭や豊島岡女子学園、鷗友学園女子など難関校の生徒が多かったのですが、最近は普連土学園、田園調布学園、山脇学園など多くの女子校で増えています。
野澤 女子は、算数は苦手でも理科が好きなら、理系に進む傾向がありますね。
広野 算数はひらめきの要素も強いので向き不向きが分かれますが、数学は日々の勉強の積み重ねが重要です。中学になると、こつこつ勉強する女子は男子に比べて数学が得意になる生徒が多い。
井上 三輪田学園は数学の先取り学習を重視するのではなく、じっくり時間をかけて数学に取り組むことを大事にしています。これからの世の中では、数学嫌いにならないように指導することはすごく大切です。
安田 三輪田学園は法政大との連携を見直し、大学のデータサイエンスの授業を生徒がオンライン聴講できる制度をつくりました。
野澤 法政大への推薦枠が30人あることも人気を後押ししています。
安田 他にも高大連携に力を入れている進学校が増えています。大学付属校でなくても大学の授業を受けたり、実験室を見学できるようになると、進学先が併設大に限られる大学付属校より、選択肢の幅が広い進学校のほうがいいと考える家庭は多いかもしれません。難関大付属校の人気も、落ち着いてきました。
井上 現在も高大連携を進めている学校がありますので、今後の発表に注目したいと思います。

――大学入試では、一般選抜の募集人員が減り、推薦等の年内入試が増加するなど変わってきています。これからの中高一貫校の進路指導はどうなりますか。

岩崎 私立校ではキャリア教育を重視し、大学で何が学べるのかを理解した上で、進学先を選択するように指導しています。これまでのような東大を頂点とした序列で大学を選ぶことは減るのではないか、と思います。中学受験では学校選択の多様化が進んでいますが、大学選択でも同様の状況になっていくのではないでしょうか。
広野 何も考えずに偏差値上位の大学を目指す人は減るでしょうね。海外大学に進学する人もいれば、自分が研究したい内容に合った大学を選ぶ人もいるというように、大学の選び方は多様化していくと思います。
井上 中高一貫校では高校受験がない分、時間をかけて自分に合う大学を探すことができることは大きなメリットです。今後、さらに人気が高まりそうです。
安田 年内入試で大学に入学する生徒が増えています。入学後に自分が困らないために、進学先が決まった後も勉強を続け、基礎学力をしっかり身につけた上で進学してほしいです。

◇変化が多い時代を迎え安易な志望校選び禁物

――24年入試の変更点や注目校、志望校の選び方について教えてください。

岩崎 24年4月、埼玉に開智所沢中教(仮称)が開校します。私立校が少ないエリアに開校する上、最寄り駅から徒歩で通える立地も魅力的で、注目が集まりそうです。
広野 横浜雙葉が2月2日の入試を新設し、1日と2日の2回入試になります。受験チャンスが増えて志望者が増えそうです。今後も、入試変更の情報が出てきますから、しっかり調べて志望校を決めてください。
野澤 今春、相鉄と東急の新横浜線が開通しました。乗換回数が減って通いづらかった地域から通いやすくなるなど通学範囲が拡大し、志望校選択の幅が広がります。
井上 変化の多い時代を生きる今の子どもたちにとって大切なのは、将来自分が何をしたいのか考えながら学ぶことです。中学入試、大学入試に限らず、志望校選択をする際は、先を見通して子どもに合う進路を選んでほしいです。
安田 最近は1回分の受験料で何回でも受験できる学校が多いため、とりあえず出願しておくというケースが増えています。そのため安易な志望校選びが行われている場合もあります。事前にきちんと学校を調べ、親子で十分に検討した上で志望校を選んで、周りに左右されずに落ち着いた受験をしてほしいと思います。

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