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【ニュースがわかる2024年5月号】巻頭特集は10代のための地政学入門

探査機SLIM 月面着陸成功 小さいけれどスゴい技術満載【ニュース知りたいんジャー】

日本の探査機「SLIM」が1月、月面着陸に成功しました。旧ソ連(ロシアなどの前身)やアメリカ、中国、インドに続く5か国目。でも、目標から100㍍以内という、正確な着陸に成功したのは、世界初です。小さいながら、すごい技術を載せた、探査機の姿を知りたいんジャー!【山田大輔】


 ◇どんな探査機なの?


 SLIMは英語のSmart Lander for Investigating Moon(小型月着陸探査機)の頭文字をとった名前です。英語のslim(細身、きゃしゃ)と語呂合わせしたところに、研究者のちゃめっ気と、技術の高さへの自信があふれています。宇宙航空研究開発機構(JAXA)が20年以上前から開発してきました。
 高さ2・4㍍、縦1・7㍍、横2・7㍍。3畳間ほどの大きさで、燃料を除く重さは200㌔㌘と、3~4人世帯の冷蔵庫2台分ほど。燃料を入れても700~730㌔㌘と、車のトヨタ・プリウスの半分ぐらいで、他国の探査機の数㌧~十数㌧より、かなり軽いです。ここに、正確に着陸するためのカメラやレーダー、着陸用のメインエンジン2基、飛行中に姿勢を修正するスラスター(噴射機)12基、着陸用の脚5本、地球との交信アンテナ、着陸直前に月面に放つ小型ロボット2機など、必要な物を全部載せています。


 ◇どうやって生まれたの?


 開発を始めたのは、小惑星探査機「はやぶさ」を造った研究者たちです。はやぶさは日本で初めて、地球以外の天体に着陸した探査機です。でも、重力がほとんどない小惑星と違い、月は地球の6分の1ほどの重力があります。このため、月に落っこちて壊れないようエンジンを噴かし、速度を落として降りなければいけません。また、目標からそれても、もう一度上がってやり直したりできません。こうした条件に挑むため、「次は月だ」と考えたそうです。
 しかも、目標地点にピタリと降り立つ「ピンポイント着陸」を目指しました。他国の探査機は数㌔㍍四方の範囲内に着陸する形ですが、そんなに離れたら、地球なら隣町です。これからの探査は「調べたい岩がある、あのガケ地に降りたい」という高い要求を満たすべきだと挑戦したのです。提案は何度も不合格になり、「続けてもムダ」と言われましたが、どんどん新しいアイデアを出して改良し、ついに実現させました。

 ◇どこがすごいの?


 SLIMは月面の地形を見ながら、自分で飛んでいる場所を判断できます。月にはGPS(全地球測位システム)はありませんが、各国の探査機の成果で作った細かい地図があります。それとSLIMのカメラが写す月面の画像を一瞬で見比べるのです。スマホの顔認識技術を応用し、超高速で処理するためコンピューターも改良しました。
 目標とする傾き15度の斜面に降りられるよう「2段階着陸方式」も開発されました。4本脚でドシッと降りようとすると、斜面でコケないよう重く複雑な脚が必要です。このため、不安定な1本脚(主脚)で一度着地し、わざと転がらせてから、補助脚で着地するという方法です。小型化のための「逆転の発想」でした。軽くする技術は他にもたくさんあり、例えば太陽電池は薄いシートで、面ファスナーで本体に付けています。


 ◇どうやって月に行ったの?


 SLIMの目標地点は、月のウサギの耳にあたる「神酒の海」の「SHIORIクレーター」近くです。「月探査の『しおり』となって、末永く参考にしてもらえる場所に」と今回名付けられました。
 SLIMは昨年9月、H2Aロケット47号機で鹿児島県の種子島宇宙センターから打ち上げられました。10月には38万㌔㍍離れた月のそばを通り、月の重力を借りて飛行経路を大きく変えました。「スイングバイ」といい、少ない燃料で飛ばす方法です。12月に月の周回軌道に入り、今年1月20日午前0時、高度15㌔㍍から降下を始めました。
 同0時20分ごろ、着陸に成功。小型ロボットが撮影したSLIMは、エンジンが上を向き、予定より90度傾いた姿で関係者は驚きました。高度50㍍近くで異常があり、エンジン1基が壊れたようです。しかし、着陸は目標の約55㍍東と十分に正確でした。高度50㍍までは誤差わずか数㍍だったこともわかりました。


 ◇期待する成果は?


 傾いたままでは太陽光発電ができないため、SLIMの電源は1月20日午前3時ごろ、地球からの指令で切られました。再起動できるよう、内蔵バッテリーの残量がある間に「スリープモード」にしたのです。この作戦がうまくいき、西日が斜めに当たって発電が回復した1月28日夜から31日まで、SLIMは活動を再開し、たくさんの観測データを地球へ送ってきました。
 特別なカメラで撮った岩石の写真からは、その成分がわかります。周りの岩石と違うものがあれば、衝突などでよそから来たかもしれません。地下深くから出てきたマグマの一部なら、地球の岩と比べて、月がどのようにしてできたのか、地球と月の関係は――などの謎を解くカギになると期待されています。
 また、将来月や火星などに人が滞在するには、水などの資源を現地で確保する必要があります。世界初のピンポイント着陸の技術は、そのために欠かせず、「日本の強み」になりそうです。(2024年02月21日毎日小学生新聞より)