◇教えてくれた人 吉田誠司さん
読者の皆さんは、4月に始まった新しい生活に少し慣れてきたころでしょうか。5月の連休明けは、毎年疲れが出やすく、この時期の体や心の不調を「五月病」と言います。五月病の起こる仕組み、対処方法について、大阪医科薬科大学の小児科医の吉田誠司さんに聞きました。【田嶋夏希】
◇最近何だかやる気が出ないよ
もしかしたら五月病かもしれません。4月に始まった新しい環境になじむように頑張りすぎた状態が続き、うまくリラックスできないことが原因で、やる気が出ない、疲れやすい、頭痛や腹痛、どうき(心臓が激しく打つこと)、めまい、朝起きられないなどの症状が出ます。「五月病」という名前の病気があるわけではなく、この時期に表れやすい心や体の不調を指しています。体はとても疲れた状態なのに、その疲れに気付きにくく、症状が出た時には心も体も疲れ果ててしまっている、ということもあります。
◇何で5月なの?
4月は、新しい学校に入ったり、クラス替えや担任の先生が代わったりして、環境ががらっと変わる時期です。人間もそうですが、生き物にとって、環境の変化はストレスを引き起こすもの(ストレッサー)になります。ストレッサーを感じると、この状況に負けないよう、体を整える役割がある「自律神経」のうち「交感神経」が無意識に働きます。心臓がドキドキと打ったり、血圧が上がって血液の流れが速くなったり、イライラして落ち着かなくなったりして、ストレスに立ち向かう「戦闘モード」に入るのです。交感神経の働きで、手に汗もかきます。人の遠い祖先がサルのような暮らしをしていたころ、危険にあっても木から落ちず、生き残れるよう交感神経が働いた名残だといいます。
反対に、自律神経のうちの「副交感神経」が働くと、体を休めるよう血圧が下がったり、心拍もゆっくりになったりします。馬を走らせたり、とめたりする手綱みたいですね。ずっと「戦闘モード」が続くと、副交感神経がうまく働かず、体を休めにくくなってしまいます。こうして自律神経のバランスが崩れた状態が続くと、生活の変化が落ち着く5月ごろから体や心の疲れが症状として表れてくるのです。
◇どんな人がなりやすいの?
頑張りすぎてしまう人です。頑張ることは大切ですが、体や心の疲れに気付かずに頑張り続けてしまうと、疲れに気付いた時には手遅れになってしまうこともあります。仕事などで頑張りを求められる機会のより多い、大人の方がなりやすいそうですが、小学生も「五月病について知識を持っておく方がいい」と吉田さんは言います。塾や習い事などで睡眠時間が減っていて、自律神経のバランスが崩れがちなことと、新型コロナウイルスの影響で人との交流が減り、孤独を感じやすかったり、頑張りが認められにくかったりする状況が続いているためです。
◇6月になったら治るの?
時間が過ぎたら自然に治る、というものではありません。五月病かなと思ったら、まずはしっかり寝て、いつも通りにちゃんと食べ、生活のリズムを崩さないようにして自律神経のバランスを整えましょう。先生と相談して、保健室で休ませてもらったり、元気になるまで習い事を休んだりして、活動の量を減らすこともよいでしょう。
五月病になるのは頑張っている証拠なので、保護者や周りの友達が頑張りを認めることも、大きな助けになります。「『ちゃんとご飯を食べてて、えらい』とか『学校で頑張ってるね』など、できていることを見つけてほめてあげてください。周りから認められることで、頑張りモードから解放されます」と吉田さんはアドバイスします。
病院へ行った方がいい場合もあります。五月病の症状から遅刻や欠席など学校生活に支障が出る状態が3日も続くような場合は、すぐに小児科を受診するよう吉田さんはすすめます。朝に具合が悪くて起き上がれない「起立性調節障害」や、不登校につながることもあるからです。
◇ストレスとつきあうには?
ストレッサーから離れて、気分が変わるようなことを積極的に行います。これを「ストレスコーピング」と言います。吉田さんは、気分転換のネタをたくさん用意して書きためておくことをすすめます。頭を使うものと、体を使うものに分け、その時の気分や状況に合わせて選びます。
勉強の疲れを発散したい時には体を使うもの、体の疲れをほぐす時には頭を使うもの、と反対のものを選ぶのがいいそうです。体を使うものは、ジョギングや散歩、ボール遊び、おしゃべりなど、頭を使うものは、本を読んだり、音楽を聴いたり、テレビを見たりすることなどです。テレビゲームは種類によって、体を使うものも頭を使うものもあります。
大事なのは「今から気分転換をするぞ、楽しむぞ」と自分に言い聞かせることだといいます。特に何も考えずにすると、だらだらとゲームをしただけのようになって、ストレス発散につながりません。おしゃべりをしたり、誰かとゲームをしたりと、他の人と一緒にすると、より効果があるそうです。(2022年05月25日掲載毎日小学生新聞より)