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【ニュースがわかる2024年5月号】巻頭特集は10代のための地政学入門

韓国大統領選 国民の関心高く

3月9日、5年に1度の韓国の大統領選挙が行われました。激戦の末、保守系最大野党の尹錫悦さん(61)が当選し、政権交代することに決まりました。韓国の政治や外交に詳しい慶応大学教授の西野純也さんにくわしく聞きました。【木谷朋子】


 ◇選挙はどんな仕組みなの?


 韓国の大統領選は、国民が国のトップを投票で選ぶ「直接投票」で、選挙への国民の関心は高いです。投票日は水曜日と決まっていて、選挙当日は休日となり、役所や多くの企業が休みになります。前回の2017年の投票率は77・2%、今回は77・1%でした。ちなみに日本では総理大臣(首相)を国民が直接選ぶことはできず、国民が選んだ国会議員が投票で選びます。
 韓国大統領選では、再選できないのも特徴で、大統領になると、次の選挙には出られず、1代限りです。立候補できるのは40歳以上で、任期は5年。大統領は憲法上、国家元首であり、行政府のトップです。首相や閣僚(大臣)、最高裁判所長官などの任命権も握るなど、大きな権限を持ちます。


 ◇どんな選挙戦だったの?


 選挙には10人以上が立候補しましたが、最終的には、保守系の最大野党「国民の力」の尹さんと、進歩系の与党「共に民主党」の李在明さん(57)の激しい戦いとなり、尹さんがわずかな差で競り勝ちました。李さんは、今の大統領の文在寅さんを支える与党の候補で、尹さんは、文政権に対抗する野党の候補として政権交代を目指しました。
 韓国では、アメリカの民主党と共和党の2大政党のように、保守と進歩(革新)が激しく対立し、1987年の民主化以降、ほぼ10年おきに、保守と進歩が交代で政権を担ってきました。
 今回の選挙では、尹さんと李さんに続く支持を集めていた候補がいました。中道系野党「国民の党」の安哲秀さん(60)です。3回目の挑戦だった安さんは3月3日に立候補をとりやめ、尹さんの支援に回りました。
 尹さんも李さんも、国内の政策では新型コロナウイルス感染症対策を最優先に掲げるとともに、国民の関心の高い「住宅」と「雇用」問題の解決を公約しました。外交と安全保障に関しては、尹さんは、ミサイルの発射などを続ける北朝鮮の軍事的な脅威に、アメリカなどと協力して対抗する考えです。当選直後の10日朝、さっそくアメリカのバイデン大統領と電話で話し合い、連携を強めることを確認しました。これに対して李さんは、今の文政権と同じように北朝鮮との対話を重んじる考え方です。


 ◇新しい大統領はどんな人?


 尹さんは、9回目の挑戦で30代になってから司法試験に合格し、主に政界の捜査を担う部署で働いていた検察官でした。文政権では検察改革の「顔」として検察トップに抜てきされました。「自分が正しいと思えば妥協しない」タイプで、文政権の側近の不正を追及して法務大臣と対立し、昨年3月に辞任しました。「反文政権」の象徴として、最大野党「国民の力」の大統領候補になりました。選挙戦では文政権を「腐敗している」と批判し、公正な国をつくるとアピールしました。
 そんな尹さんですが、政治経験はありません。5月10日に大統領に就きますが、うまく国を運営できるのか注目されます。
 わずかな差で敗れた李さんは国政経験はありませんが、これまでソウル近郊の京畿道知事や京畿道城南市長など、地方政治を担ってきました。


 ◇日本との関係はどうなるのかな?


 これまでの韓国の大統領は日本に対して、特に日韓の歴史問題で厳しい姿勢をとり、この10年間、関係はかなり悪化しました。新大統領の尹さんは、選挙戦を通じて日韓関係の改善が必要だと訴えています。当選後の記者会見でも「未来志向的な日韓関係を作っていく」と述べました。しかし、植民地統治時代に被害にあった朝鮮半島の人々に対する日本の責任をめぐり、韓国内には厳しく追及すべきだとの意見が多数あります。国会では「国民の力」は少数与党になり、尹さんが日韓関係を改善したいと思っても、うまくいくとは限りません。尹さんは、国民に対して関係改善の必要性を丁寧に説明し、理解を得なければなりません。
 とはいえ、民間レベルでの日韓関係は良好です。日本でも韓国の音楽やドラマ、食べ物などは人気があり、経済的な結びつきもあります。また、韓国の若い世代は、日本に対する悪いイメージは少ないそうです。
 日本政府も、尹さんと話し合いを始める可能性がありますが、これまでの経緯もあり慎重に進めていくとみられます。


 ◇若い世代の不満が高まっているの?


 今の韓国は、高騰する住宅や若者の就職難、格差などの問題を抱えています。文政権の約4年半で、首都ソウル市内のマンションの平均価格は2倍以上にはね上がったという調査結果もあります。激しい受験戦争や就職難にさらされてきた若い世代にとって「頑張れば報われる」とは思えない社会です。そのことに対する政治への不信や不満が大きくなっています。
 韓国は年代ごとに支持政党が分かれる傾向にありますが、若い世代は政党にこだわらず、自分たちの生活が少しでもよくなる政治を求めています。今の20~30代は、前回の大統領選で文在寅さんを支持し、政権誕生を後押ししました。平等な競争によって報われる社会を期待したからですが、現実はそうなりませんでした。
 今回の選挙で、尹さんは文政権に失望した若者の心をつかもうと、兵役義務のある若い男性の扱いの改善などを掲げました。しかし、女性の社会進出を進める「女性家族省」の廃止を打ち出したため、女性からの支持を失い、男女間の対立を深めてしまいました。尹さんは、男女ともに配慮した政策を進めることが求められています。(2022年03月16日掲載毎日小学生新聞より)