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【ニュースがわかる2024年5月号】巻頭特集は10代のための地政学入門

人類初のマントル到達なるか

人類は何度も地球の中心部まで掘り進めて、マントルから岩石を収集できないか、挑み続けてきました。
今回は『面白くて眠れなくなる地学(PHP文庫)』(PHP研究所刊)から、未知なる地球の内部へ挑み続けてきた歴史と、地球深部探査船「ちきゅう」の挑戦をご紹介します。

 「地震波の分析からわかることは間接的だから、直接マントルまで掘り進めて、マントルから岩石を取ってきたい」というプロジェクトがありました。1960年代のことです。このプロジェクトはモホール(モホ面とホール=“穴”の合成語)計画と呼ばれました。

 地殻は海洋底なら薄いからと、メキシコの太平洋沖の海底にドリルを4キロメートルほど沈めて、そこから5キロメートルほど掘り進めればマントルに達するはずと考えたのです。しかし、すべては失敗に終わりました。掘り進んだのはたったの180メートルでした。1966年、アメリカ議会はかさむ経費と見返りのなさにモホール計画を葬り去りました。

 その4年後、当時のソビエト社会主義共和国連邦(ソ連。1991年12月崩壊)の科学者たちが、陸地で挑戦を開始しました。フィンランドとの国境近くのコラ半島(現在、ロシア)に場所を決めて、15キロメートルの深さを目指したのです。

 当時、米ソは冷戦の最中で、宇宙開発競争などと共に、もっとも深い穴を掘るという高い技術力を有していることを証明する手段の一つだったのかもしれません。あるいは深い地下の構造を探ることで、石油などの地下資源を得られれば優位になると考えていたと思われます。

 マントルまでは到達できませんでしたが、ソ連が19年後に断念したときには1万2262メートルまで掘り進みました。

 今、マントルまで掘り進めることに期待されているのは、わが国で2005年7月に完成した地球深部探査船「ちきゅう」です。

 「ちきゅう」は世界最高の掘削能力(海底下7000メートル)をもっています。国際深海科学掘削計画(IODP)の主力船として、「地震発生帯」「マントル調査」「海底下生命圏」「大陸形成」「地球史の変遷」の5つの解明を目標に掲げています。

 なかでも、海底下の大深部まで掘削し、今まで人類が到達できなかったマントルのサンプルを採取すること。これこそが「ちきゅう」がつくられた最大の目的なのです。

 マントル掘削の事前調査は、2014年夏からハワイ沖で始まりました。マントル調査においてハワイ沖に加え、コスタリカ沖、メキシコ沖の3つのフィールドが候補にあげられています。これら3つの海域はいずれも水深が4000メートル近くあります。さらにその海底から6000メートル以上も掘り進めなければならず、ドリルパイプの総延長も10キロメートル以上に及びます。

 2019年11月、「ちきゅう」の掘削は、海底面から3262.5メートルに達しています(世界最深記録)。

 大陸の移動、火山活動などの原動力は、マントルの対流であると考えられています。直接、マントルに到達してその部分の岩石を採取してくることで、地球の内部やそのなかの動きについて何が解明されるのか、地球深部探査船「ちきゅう」が人類史上初の快挙をなしとげることを期待したいと思います。

紹介した本はコチラ

タイトル:
面白くて眠れなくなる地学
(PHP文庫)
著者:左巻健男
出版社:PHP研究所
定価:825円

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著者プロフィール

左巻健男(さまき・たけお)

1949年生まれ。栃木県出身。東京大学非常勤講師(理科教育法)。
千葉大学教育学部(理科)卒業。東京学芸大学大学院修士課程修了(物理化学・科学教育)。中学・高校の理科教諭を26年間務めた後、京都工芸繊維大学教授、同志社女子大学教授、法政大学教授を歴任。2019年より現職。専門は理科教育(科学教育)・科学啓発。
『面白くて眠れなくなる物理』『面白くて眠れなくなる化学』『面白くて眠れなくなる理科』(以上、PHP文庫)、『新しい高校地学の教科書』『新しい高校化学の教科書』(以上、講談社ブルーバックス)、『絶対に面白い化学入門 世界史は化学でできている』(ダイヤモンド社)など単著・編著多数。