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【ニュースがわかる2024年5月号】巻頭特集は10代のための地政学入門

記憶する苦痛、アプリで解消 モノグサCEO・竹内孝太朗さん【やる気レシピ】

受験勉強で、英語なら英単語、歴史なら史実など最低限の基礎知識を記憶しておくことは不可欠だ。しかし、「すぐに忘れてしまう」と苦しんでいる受験生は多いはず。苦しまずにラクに記憶できるようにという発想から学習アプリを開発したのが「Monoxer(モノグサ)」(東京都)。社名と同名のアプリはどんな仕組みなのか、創業者で代表取締役最高経営責任者(CEO)の竹内孝太朗さんに聞いた。

――「記憶」に着目したのはなぜですか?

◆学習においては、3ステップあると考えています。理解、定着、活用です。分数の計算にたとえるなら、「理解している」とは分数の計算の方法がわかる、という状態です。「定着している」とは、計算方法を使っていろんな問題を素早く計算できる状態のことです。私たちはこれを「記憶している状態」と定義しています。

今、「理解」を手助けするアプリはたくさん出ています。例えば、授業の動画をみてもらうタイプのものです。ただ私は、理解を手助けするのは、アプリよりも人間が優れていると思っています。最高の家庭教師を1科目ずつつけられるのが理想ですが、現実的に難しいので、動画配信アプリが使われているのだと思います。一方で、「定着」はアプリの方が人間より優れている分野だと思います。

――なぜですか。

◆英単語を覚える場合、多くの人は単語帳を繰り返し読んだり、書き写したりすると思いますが、長期にわたって記憶させるには「問題を解く」という行為が有効だということが研究で分かっています。いかに早く多くの問題を出し、丸つけをできるかがかぎになります。これはアプリの方が人間より優れています。さらにアプリは、記憶しやすいように、その人に合った最適なレベルの問題を出すことも得意です。

――最適なレベルの問題とは?

◆思い出そうとした時にぎりぎりあきらめない程度のレベルの問題です。難しすぎると解くのが苦しくなるし、思い出すのをあきらめてしまいます。しかもアプリは、覚えたことを忘れてしまうことも加味して問題を出すことができます。教員が自分のクラスの全40人の生徒に2000個の英単語を覚えてもらおうと思った時、生徒それぞれの定着のスピードは違います。それを把握しながら各生徒に合った問題を出していくことは人間では難しいですが、アプリなら簡単にできます。

――それでも記憶しようとすることは苦痛だと思うのですが。

◆実は人間は苦もなく覚えていることがたくさんあります。ドアの開け方は当たり前のように知っていますよね。今日のランチは何を食べようかと考えた時、何の苦もなく思いつきます。でも、目の前に1000語の英単語をぽんと出されて、全部覚えろと言われると嫌ですよね。どこから覚えようか、とか不安になります。そうした「記憶の管理」をしなければいけないことが苦痛の原因だと思っています。なので、その部分をアプリに委ねようというのが私たちの考えです。
 私たちは記憶のコストをゼロにすることを目指しています。英単語を覚えるのも漢字を覚えるのも空気を吸うのと同じぐらい自然な感覚にする、目指すのは「記憶を日常に」です。

――それはどんなイメージでしょうか。

◆例えば、今「調べる」という行為に苦痛を感じる人はあまりいないと思います。それはグーグルのような検索エンジンがあるからです。かつては、旅行先の情報を調べようと思ったら本屋や図書館に行ってガイド本を探して調べる必要がありました。お金もかかるし、手間ひまもかかった。ところが、今はネットで検索すれば、ほしい情報が簡単に入手できます。記憶することもそれに似たような状態にしたいのです。そうすれば記憶することが苦痛ではなくなるので、勉強が嫌だという感覚も薄まってくると思います。

――アプリを導入した学校では、英検を受検する生徒が増えたケースもあるようですね。なぜでしょうか。

◆英単語をたくさん覚えたから英検に興味を持ったということがあるのだと思います。興味があるから覚えようとするケースもありますが、詳しい情報を持つことで興味がわくということもあるのだと思います。なので、行動を変容させるには記憶させることがいいと私は思っています。【聞き手・三木陽介】

(2021年9月27日掲載毎日新聞より)

人物略歴

竹内孝太朗(たけうち・こうたろう)さん

1987年生まれ、愛知県出身。名古屋大経済学部卒。2010年リクルートに入社し、13年から「スタディサプリ」で高校向けサービスの立ち上げに従事。16年に高校の同級生の畔柳圭佑氏とモノグサを共同創業。現在アプリは全国の塾、予備校、小中高校など3400教室で導入。