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【ニュースがわかる2024年5月号】巻頭特集は10代のための地政学入門

スクールエコノミストWEB【獨協中学校編】

スクールエコノミストは、私立中高一貫校の【最先進教育】の紹介を目的とした「12歳の学習デザインガイド」。今回は獨協中学校を紹介します。

子ども ▶ 障がい者 ▶ シリア難民 環境教育が広げた学びのフィールド

<3つのポイント>

① 学業だけでは得られない人間的成長を促す獨協流の環境教育

② 環境を通じて社会とつながり、誰かのために行動する喜びを実感

③ 10代の教育に必要なものは、他者や物事への「共感」

小学生や障がい者との関わりが自己肯定感をはぐくむ

 15年以上にわたり、獨協は継続して環境教育に取り組んできた。校内には手入れの行き届いたビオトープや屋上緑化などがあり、都心にありながらいつでも自然を間近で感じられる。これらを管理しているのが緑のネットワーク委員会のメンバーたちだ。中1から高2までの有志約50名が協働して活動している。理科を担当し、同委員会顧問の塩瀬治教諭は語る。「土づくり、野菜や植物の植え付け、肥料やり、水まき。暑い日も寒い日も、教員が何も言わずとも生徒はコツコツと世話しています。10代の男の子には地味に感じられる作業ばかりです。彼らのひたむきさ、そして心根の優しさに感心させられています」。

 活動は校内だけにとどまらず、2016年からは環境ファシリテーター活動が始まった。木箱に防水加工を施し、沼地と陸地を再現して動植物の多様性を観察できる同校のオリジナルの装置である箱ビオトープを近隣の公立小学校に出向いて設置。生徒自らが小学生向けに、環境をテーマとした出前授業も行った。この交流がきっかけとなり、今度は小学校の飼育委員会の児童を獨協に招き、自分たちが育てている作物の観察や収穫をしてもらうなど、次なる活動へと展開していった。委員会の名の通り、緑のネットワークはさらに広がり、同校のある文京区内にオープンした重度障がい者施設との結びつきもできた。依頼を受けて箱ビオトープを設置したほか、収穫したての作物を届けに行くなど、交流を重ねてきた。「施設には生徒と同年代の若者もいて、訪問すると、言葉にはならない喜びをまっすぐに表現してくれるのです。その素朴で純粋な思いを、生徒は真正面からキャッチしている。中高生ならではの感性ですよね、大人などよりもはるかに鋭い」と、塩瀬教諭。

小学生に環境教育を行う様子

 数々の活動実績を携え、シンガーのさだまさし氏が設立した公益財団法人「風に立つライオン基金」主催の「高校生ボランティア・アワード」に参加、高い評価を受けた。誰かの役に立っているという実感やそれを認めてもらえたという嬉しさは、生徒の成長を促すとともに、自己肯定感へとつながっている。

校内から地域、地域から世界へ ドイツのエリート校も獨協に注目

 緑のネットワーク委員会の活動は、環境問題に興味を持つ海外の同年代の心にも届いている。同校のウェブサイトで公開されている取り組みを見て関心を持ったドイツのエコレアインターナショナルから環境教育の提携打診を受けた。2019年、教員と生徒11名が同校を訪れ、それぞれの思いを交わし合った。

 創立時からドイツ文化と深いつながりのある同校はドイツ研修旅行を実施しているが、環境教育に注力してきた背景から、プログラム内にドイツ国内で2番目の規模を誇る環境教育施設で講義を受ける機会を盛り込んでいる。また、環境や自然だけでなく、多文化理解も研修旅行の大きなテーマの1つ。講師は幼い頃に難民としてシリアからドイツに来た男性だ。「ドイツ政府の助けで教育を受け、仕事にも就けた。将来は故郷に戻ってシリアを立て直す一助になりたい」と、切々と語った。「その方が生徒一人ひとりに問うのです、『君は将来、何をしたいの?』と。地平線の彼方にあると思っていた出来事や誰かの人生がぐんと迫り、生徒は改めて自分の存在や、これからいかに社会と関わっていくかを見つめ直したようです。杓子定規でなく、真摯に、絞り出すように答える姿が印象的でした」と、塩瀬教諭は振り返る。