スクールエコノミストは、私立中高一貫校の【最先進教育】の紹介を目的とした「12歳の学習デザインガイド」。今回は桐朋中学校を紹介します。
「出会い」が生徒たちを大きく変える。様々な人や未知の世界が溢れた学校
<注目ポイント>
①生徒の自主性を重んじ、「自律的な学習者」を育成
②実体験を積むことで、「本物」に対して感動できる知性を育む
③多様な人々との「出会い」により、視野を広げ、将来を考える
自主性と多様性が尊重される風土
「自主・敬愛・勤労」を教育目標に掲げ、創立以来、生徒一人ひとりの自主性を養うことを実践してきた桐朋中学校。教員が一方的に教えるのではなく、生徒が自ら考え、興味のある物事にトライするのが、同校の授業スタイルだ。初めての挑戦に失敗はつきものだが、結果と向き合うことで、自分の適性や能力を把握できるメリットもある。「答えにたどり着くことだけを目指さず、チャレンジの過程を楽しむ生徒も多い」と上原隼教諭は語る。自由な校風で知られる桐朋、緑豊かなキャンパスは、生徒たちが伸び伸びと可能性の翼を広げていく環境として申し分ない。
桐朋が「自主性」とともに重視しているのが、「出会い」だ。同校は、中学、高校と受験による入学者を受け入れているが、成績別や文理別のクラス編成は行わず、併設の小学校から進学した生徒や高校からの入学者も一緒に授業を受けるカリキュラムが組まれている。これは、異なる環境で学んできた生徒たちが、互いに影響しあい、切磋琢磨して成長していくという効果を生んでいる。
中3と高2で実施される修学旅行も、多様な考え方と触れる貴重な機会となっている。例えばある年の中3生は、東北修学旅行のテーマを「震災と復興」と定め、4泊5日の旅を行った。東電株主代表訴訟で反原発の立場をとる原告側弁護団長の講演会を実施、旅行先では原発の当事者である東京電力の社員に話を伺った。いずれも桐朋のOBであることから実現。異なるの立場から意見を聞くことは、偏りなく広い視野を持つという同校の方針につながるものとして、保護者からも理解を得られた。一方、高2の修学旅行は完全に生徒主体。クラスごとに選出された委員が担任とともに行き先を決定、春休みに下見旅行まで行なった生徒がいた年もあるほどの力の入れようだ。ユニークな人物に会うこともプログラムに組み込まれた。猟師、学者など、様々なスペシャリストの生き方や思想に触れる体験は、多様性を受け入れ広い視野をもつ精神の育成にもつながる。
科学的思考を育む理科教育
理科に関しては、中高それぞれ目的に応じた教育を行っている。中学では、基礎的な知識を身につけて物事を説明する力を培い、本物との出会いに感動できる知性を育む。高校では、自然の本質を見極める視点を持ち、批判的思考もできる力を養う。実験に多くの時間が割かれるのは、「本物、実体験主義」を掲げる同校ならでは。
まず中1、中2では、「目に見える」具体的な事象を題材に、物理と生物を学ぶ。実験観察やレポートを作成することによって、早い段階から「科学的思考」を育む狙いもある。数学的思考に偏った生徒は絶対的な正解に早くたどり着こうとしがちだが、科学の世界では「誤差」が発生する。確かな正解を探すのではなく、実験・観察の結果から論理的に説明する思考力を養うことが理科教育の目標だ。中3になると、ミクロな現象や遥かな宇宙といった「目に見えない」世界へと題材を広げ、より抽象度の高い化学と地学を学ぶ。理科4分野の授業は、各科目専用の実験室も使い、独自の研修制度で専門分野の研鑽を積んだ教員が担当するのも桐朋の強みだ。
生徒たちは、教員から授業の教えだけでなく、学問に対する情熱も受け取る。「ミクロの単位の固体が集まって地球のような惑星ができるのはなぜか。地学はわからないことだらけ。未知の世界を探求するのが地学の魅力」と語る上原教諭は、幼い頃「宇宙には始まりがある」と知り衝撃を受けた。そして高3時代に「アインシュタインロマン」というテレビ番組を観たことが、天文学を目指すきっかけとなったという。出会いの大切さ、探求する喜びが、教員の体験に基づいた言葉で生徒に届けられる。
地学の学習には中3の1年間があてられ、1学期は気象、2学期は地震、火山、岩石、そして3学期は宇宙を学ぶカリキュラムが組まれている。「本物」との出会いを大事にしている桐朋では、そのための環境が整えられていることも特筆すべきだろう。地学に関しては、最新鋭のデジタル式プラネタリウムと口径40センチの反射望遠鏡が備えられ、学内にいながら本物に迫る視覚体験を得ることができる。
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