人間には失敗する自由もある
格差社会で人は幸せになれるのか。気鋭の財政社会学者、慶応大教授の井手英策さんは「格差はキミのせいではない。幸せになるチャンネルは身近に幾つもあって、それに気づく力をもっているかどうかだ」という。そんな思いを小学生にも伝えたいと、「ふつうに生きるって何? 小学生の僕が考えたみんなの幸せ」(毎日新聞出版)を今年2月に出版した。格差社会を生き抜くために必要な力とは――。井手さんに聞いた。
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――小学生の保護者の方たちへのメッセージをお願いできますか。
【井手】 子どもたちにはいろいろな経験をさせてほしい。自分の価値観はワンオブゼムに過ぎない、それが正義だと思ってはいけないと思います。
親はこれまでの経験で培われた価値観でしか生きていけない。その価値観を子どもたちに押しつけていくことは仕方のないことであり、実は大切なことだと思います。だって親子なんだから。それはそれでいいんです。
ただ、親の価値観が間違っていたときに子どもに対して責任を取れるんですか、ということですよね。
社会が大きく、まれにみるような速度で変わっていっている中で、自分の価値観だけですべてがうまくいくと思うとしたら、それは傲慢ですよ。
親の価値観を子どもに伝えることは素晴らしいことだと思うけれど、その他の価値観もあることもきちんと伝えていかなくてはならない。そうでないと、本当の意味で子どもに責任を取れないと思う。
人間には失敗する自由もあるんです。まずは子どもにやらせてみて、失敗したら、そこから一緒に考えようというプロセスを大事にしてほしいですよね。だから、いろんなことにチャレンジさせてあげてほしいです。
「あんたから目を離したことは、一瞬たりともない」と言った母
―この本は毎日小学生新聞の連載がもとになっていますが、再構成されたとうかがいました。
【井手】 家で多くの時間を一緒に過ごした子どもたちに、考え方や発想をたくさん聞きながら、子どもたちのリアルに近づけるように直しました。また、大人たちがどれほど悩んでいるのかも、子どもたちに伝えたかった。
愉太郎のお母さんは、愉太郎が受験すべきかどうかを愉太郎に最後まで言えずじまいでした。大人も本当に悩んでいる。そして、親は子どもに大金持ちや超有名人になってほしいわけではない。穏やかで、ささやかでもいいから幸せを感じながら生きていけるような人になってほしいと皆、思っている。
「あんたから目を離したことは、一瞬たりともない」と母に言われて、うれしかったことを覚えています。
どんなにつらいときでも、どんなに困ったときでも、必ず誰かが自分のことを見てくれている。生きるってそんなものよ、ということを伝えたかった。
この物語に出てくる人は、えらい人ではないけれど、ちゃんと人のことを見ていて、気にかけている。大人たちは子どもたちのことを考え、子どもたちも大人たちのことを思い、みんながみんな幸せになってほしいと思って生きている。
そんな人間に対する希望を感じながら読んでほしいと思っています。