鏡を知らない人たちが巻き起こすドタバタ劇です。親子の感動的な再会から、夫婦の浮気問題まで、喜怒哀楽がつまった古典落語。噺の展開の面白さからも目が離せません!(「Newsがわかる2023年9月号」より)
【英文】
In the old days, when people did not know about mirrors, there was a man called Shosuke in Matsuyama village in Echigo. Shosuke was a faithful man who visited his parents’ grave every day for 18 years, ever since they passed away. The lord hears this and tells Shosuke, “I’ll give you a reward. What do you want?” Shosuke answers, “I want to see my father once more.”
Hearing that Shosuke and his father look a like, the lord puts a mirror inside a box and shows him. Having never seen a mirror, Shosuke looks inside and says, “Father! I’m so happy to see you!” He asks the lord if he can bring his father home, and is permitted to do so. However, his wife finds the box. When she opens the box, she finds a woman inside! Now, a big fight begins!【和訳】
昔、鏡というものを知らない人が多かった頃、越後の松山村に正助という男がいた。
この正助、両親が亡くなってから18年の間、毎日墓参りを欠かしたことがないという親孝行な男。ある日、そのことを聞いたお殿さまから「何でもかなえる、何がほしい?」と聞かれた正助、「もう一度、とっつぁまに会いたい」と答える。
亡くなった父親と正助がそっくりだと知ったお殿さま、鏡を箱の中に入れて正助に見せる。すると、鏡を知らない正助は、箱の中を見て「とっつぁま! 会いたかった!」と大喜び。そして、箱の中の父親を連れて帰りたいとお殿さまにお願いし、許される。
ところが(持ち帰った)箱を正助の妻が見つけ、のぞいてみたところ、なんと箱の中には女の人が! さあ、大変なけんかの始まりだ。
「松山鏡」の噺を英語で表現すると、日常会話で使えるセンテンスがたくさんあります。特に大事なものを見ていきましょう。
お殿さまが正助に何がほしいか聞く時の言葉です。「不可能なことはない(何でもかなえてやる)、お前の願いを言え」と言いますが、正助が「もう一度、とっつぁまに会いたい」と言った時は、「そういうことじゃないんだよね」と思ったことでしょう。
「とっつぁまをうちに連れて帰らせてもらえませんでしょうか?」。鏡を知らない正助は、てっきり箱の中に父親がいるのだと思い込みます。お殿さまに鏡の入った箱を持ち帰ってもいいと言われた時は喜びながら、「とっつぁまもうれしそうだ!」と。
「お前さんのとっつぁまは、ちっともあんな顔してなかったよ!」と、箱の中をのぞき込んだ女房が正助に言います。正助同様、鏡を知らない女房が見た顔は、自分の顔ですからね、似ても似つかないはずです。
この噺のサゲです。通りがかった知り合いの尼さんが、正助夫婦のけんかを収めた上で、どちらが正しいかを確かめるために、箱の中をのぞき込みます。中には、頭を丸めた女の人の顔が。それで「箱の中の女は反省しているようだ、頭を丸めて尼になっている」と言います。
今は当たり前のようにある鏡のなかった大昔、人間は自分の姿を水に映して見ていたそうです。
日本に銅でできた最初の鏡「銅鏡」が中国から持ち込まれたのは、2000年ほど前のこと。その後、今の鏡の原形となる、ガラス製の鏡が伝わったのは16世紀でした。持ち込んだのは、なんと、かの有名なフランシスコ・ザビエルだったそうです! さすが、宣教師の鑑! 漢字が違うか。