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作文・日記・読書感想文│子どもが作文好きになる5つの心得

子どもが作文好きになる5つの心得

考える力は学力の基本。学力を上げるには「作文」がいいと言います。早稲田大学大学院で「文章表現」の講義を7年間担当したコラムニスト・近藤勝重さんの著書『書く子は育つ 作文で〈考える力〉を伸ばす!』から一部を抜粋して「子どもが作文好きになる5つの心得」をご紹介します。

本記事は2022年1月3日の記事を一部再編集したものです

[その1]聞くは言うに勝る

 映画解説者の淀川長治さんは、子どものころから一人で映画を見に行っていました。淀川少年が帰ってくると、家族全員が「どんな推理だったの?」「誰が主人公だったの?」「主人公はどうなったの?」など、いろいろなことを聞きました。 淀川少年は聞かれることがうれしくて、一生懸命話をするわけです。それでますます映画が好きになりました。どんなふうに説明すればみんながわかってくれるか、言葉の力も養われていきました。

 文章も一緒です。子どもは「面白い」と言われたら、面白い話をするようになります。親が聞く姿勢があったら子どもは話します。そのやりとりの中で子どもたちの言葉の力が磨かれていくことは間違いありません

 聞き方一つで子どもたちの文章力が高まるのです。

[その2]正しいことは決して正しくない

 子どもが95点の算数のテストを持って帰ってきました。その時、親が「100点、何人いたの?100点取らないとね」と言ってはダメなんです。

 言っていることは正しいとしても、正しいことは決して正しくないんです。

 「頑張ったね」「たった一つしか間違えなかったね」とほめてやることが、次の 100点につながります。 子どもの作文に先生がいろいろと赤ペンを入れていたとしても、「お母さんには、ここが面白いように思えるけどね」など言われると、子どもは「次は頑ろう」という気になるものです。

[その3]当たり前に不思議あり

 子どもが親からすると当たり前に思えるようなことに疑問を持って不思議がった時は、「そうよね」と一緒に考えてあげてください。

 小林秀雄氏と三木清氏との対談に「近代の人間は驚きが少なくなった。何でも当たり前に受け止めている」とあります。ロシアで隕石が落ちた時、大変な被害が出ました。ところが「隕石だ」と言ったとたんに、「隕石か」で終わってしまう。これが原始人だったら大変な騒ぎになっていたのではないでしょうか。

 ぼくらは知識があるから驚きが少ない。でも、子どもはそこまで知識がないこともあるし、その子から見れば「?」と思えることも多々あるのです。

 そこが大事なんです。そこに「考えさせる芽」がある。疑問に思うことから子ども自身がどう伸びていくか。そこに「考える子」になる芽もあるわけです。

 親も不思議がる子どもと一緒に不思議がり、考えてあげてください。

[その4]「子ども」を教えている

 科目名は「国語」でも「作文」でもなく、「子ども」……つまり“子どもを教えている”と思ってほしいのです。

 アメリカの数学の先生が、ある時、“数学ではなく子どもを教えているんだ”と考え直し、完全な答えを求める教え方を改めました。 すると、子どもたちは自分が好きになり、成績が上がったそうですよ。

[その5]「真似る」は「学ぶ」

 よくある質問に「文章上達の早道は?」があります。ぼくは「サル真似がいいようですよ」と答えています。

 すると「真似るって?」といぶかる人もいますが、芸人さんなんか師匠の芸を真似て盗む、つまり学ぶといったことを言いますよね。

 「サル真似は人間の証です、とは霊長類研究の第一人者で知られる京都大学の山極寿一教授の言葉です。真似るというのは他者を受け入れるということであると同時に、そのことで自分自身もわかってくる。いくら真似ても自分は自分、 他者にはなれませんと教授はテレビで話していました。

それでは作家の方々がおっしゃる文章上達法はどうなのでしょうか。批評家の小林秀雄氏の『モオツァルト』に出てくる次の言葉は有名です。

 模倣は独創の母である

小林秀雄『モオツァルト』より

谷崎潤一郎氏の『文章読本』には「出来るだけ多くのものを、繰り返して読むこと」とあります。丸谷才一氏の『文章読本』では「作文の極意」は「ただ名文に接し名文に親しむこと、それに盡(つ)きる」とあります。

左から、中公文庫『文章読本』谷崎潤一郎著、中公文庫『文章読本』丸谷才一著

 興味深いところでは吉村昭氏のエッセイにある次のくだりです。 「志賀直哉、梶井基次郎、川端康成、大岡昇平、永井隆男氏らの諸作品が、私の眼の前にそびえていて、私はそれらの諸氏の秀れた作品の文章を筆写したりしていた」

 「真似る」は「学ぶ」なんですね。ぼくのおすすめの筆写のお手本は、村上春樹の初めての短編集『中国行きのスロウ・ボート』に所収の「土の中の彼女の小さな犬」で描かれたリゾート・ホテルの食堂の情景です。

中公文庫『中国行きのスロウ・ボート』村上春樹著

 ぜひ原稿用紙に手書きで書き写してみてください。手で書けば一字一句が伝わってきますよ。まずはそうしてお父さん、お母さんが筆写して感覚をつかんだあと、子どもたちに国語の教科書などに出てくる文章を選んでもらい、「真似るは学ぶだよ」と教えてあげてください。

『書く子は育つ』が読める他、大人も子どもも読んでためになる厳選された書籍が楽しめます。

紹介した本はコチラ

 書影をクリックすると本の通販サイト「Amazon」のサイトにジャンプします

書く子は育つ

著者:近藤勝重 出版社:毎日新聞出版 定価:1.210円

本書の目次

第1章 文章を書くというのはどういうことか
第2章 文章は上手、下手よりテーマのとらえ方
第3章 文章は体験と気づく力の産物
第4章 五感と身体感覚をフルに生かそう
第5章 伝わってこその文章

著者プロフィール

近藤 勝重(こんどう・かつしげ)

コラムニスト。毎日新聞客員編集委員。早稲田大学政治経済学部卒業後の1969年毎日新聞社に入社。早稲田大学大学院政治学研究科のジャーナリズムコースで「文章表現」を出講中、親交のあった俳優の高倉健氏も聴講。毎日新聞では論説委員、「サンデー毎日」編集長、専門編集委員などを歴任。夕刊に長年、コラム「しあわせのトンボ」を連載中。『書くことが思いつかない人のための文章教室』、『必ず書ける「3つが基本」の文章術』など著書多数。コラムや著書の一部が灘中学校をはじめ中高一貫校の国語の入試問題としてよく使用され、わかりやすく端正な文章には定評がある。TBS、MBSラジオの情報番組にレギュラー出演し、毎日新聞(大阪)では「近藤流健康川柳」を主宰している。(この書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)