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生誕1250年「空海」【ニュース知りたいんジャー】

今年は、空海が生まれてから1250年となる節目の年です。空海とは、平安時代に活躍したお坊さんで、中国から仏教の一つ、真言密教(真言宗)を日本に伝えたスーパースターです。弘法大師とも呼ばれています。僧侶の資格を持つ毎日新聞の花澤茂人・専門記者に、空海が残した偉業や伝説などについて教えてもらいました。【長尾真希子】


 ◇どんな人?


 空海は、774年6月15日、讃岐国(現在の香川県善通寺市)に生まれたとされています。「空海は子どものころから気品があり、読み書きなどもすぐできてしまうほどの神童だったといわれています」と花澤さんは話します。空海は上京後、大学で学びますが、仏教と出会い、出家します。その後、「遣唐使」として唐(当時の中国の王朝)にわたり、密教を学びました。「本来なら20年ほど、中国で勉強しなくてはならないところ、お師匠さんの恵果さんから奥深い仏教の教えをわずか3か月で学び終え、2年あまりで日本に帰国しました。空海がどれほど天才だったかが分かりますね」(花澤さん)
 

恵果

帰国後は、京都・高雄山寺(神護寺)に入り、高野山の金剛峯寺(和歌山県高野町)を開き、真言宗の教えを広めました。

高野山 聖地とされる修行の中心地「壇上伽藍」


 ◇そもそも密教って?


 仏教発祥地のインドで誕生しました。密教とは、あまりにも深い内容なので文字や言葉では表現できない仏の教えといわれています。その教えを説くのは大日如来で、大日如来そのものが宇宙の真理(正)しい物事の道筋、真実であるといいます。
 花澤さんは「空海は、唐から体系的な密教を伝え、日本に持ち帰って、さらにその思想を深めました。『密教は奥深く文筆で表し尽くすことが難しい。そこで図や絵を使って悟らない者に開き示すのだ』と空海が作らせたのが、曼荼羅です。密教経典の思想を目で見てわかりやすいように、大日如来とそれを囲む仏たちを図や絵で表しています」と説明します。


 ◇どんな伝説があるの?


 「つえで地面を突くと、泉がわき出た」といった空海にまつわる数々の奇跡の伝説が、全国各地に残っています。
 空海が諸国を巡る途中で立ち寄った水不足で悩む村で、密教法具(道具のこと)で地面を突いたら、清水や温泉がわき出したというものです。「これは後の時代に、高野聖と呼ばれる高野山のお坊さんたちが、空海の社会事業の数々を村人たちに話して聞かせたところ、このような伝説が全国に広まったといわれています」と花澤さんは話します。

金銅密教法具


 実際、土木工事の最新技術も唐で学んだ空海は、満濃池(香川県にある日本最大級の農業用ため池)の堤防の整備もしました。


 ◇ことわざもあるよね?


 「弘法筆を選ばず(字のうまい人は筆のよしあしを問わない)」「弘法も筆のあやまり(どんな名人にもまちがいはある)」と、空海の別名「弘法」が入ったことわざがあります。弘法大師とは、当時の醍醐天皇からもらった「おくりな」です。
 空海は、嵯峨天皇、橘逸勢とともに「三筆」の一人として数えられるほどの、「書道の達人」でもありました。「空海は、書だけでなはく、文章の達人でもありました。著作は、人間の心を10段階に分けて真言密教の教えを解説した『十住心論』など密教に関するものだけでなく、文芸書や日本初の漢字辞書などもあります。また、貴族だけでなく、庶民も入学することができる『綜芸種智院』という日本初の私立学校を設立しました」と花澤さんは教えてくれました。

弘法大師請来目録


 ◇偉業を知るには?


 生誕1250年ということもあり、全国でさまざまな空海にまつわる企画展が開かれています。


 現在、奈良国立博物館(奈良市)で開催されている「空海 KUKAI-密教のルーツとマンダラ世界」(6月9日まで。小中学生は無料)では、空海が生きている間に作られた現存最古の両界曼荼羅(高雄曼荼羅)や仏像など、たくさんの国宝や重要文化財を見ることができます。
 「神護寺(京都市)に伝わる『高雄曼荼羅』は、劣化が激しかったため、約230年ぶりに6年間かけて修理が行われました。先日、この曼荼羅の絹地を染めるのに、植物のムラサキの根(紫根)を使っていたことが分かり、話題になりました」(花澤さん)
 高雄曼荼羅は、東京国立博物館で7月17日から9月8日まで開かれる企画展「神護寺 空海と真言密教のはじまり」でも見ることができます。(2024年06月05日毎日小学生新聞より)