ロシアのウクライナ侵攻や台湾をめぐるアメリカと中国の対立、相次ぐ北朝鮮のミサイル発射――。国際的な緊張が高まる中、国の平和と安全を守る「自衛隊」に注目が集まっています。自衛隊について知りたいんジャーが調べました。【長岡平助】
◇自衛隊って何でできたの?
第二次世界大戦(1939~45年)に負けた日本は、47年5月に施行(法としての力を持つこと)された日本国憲法の第9条で、戦争を放棄し、軍隊などの戦力は持たないことになりました。
ところが、50年に韓国と北朝鮮の間で朝鮮戦争が起こると、状況が大きく変わりました。
当時、アメリカを中心に自由な経済を掲げる国々と、土地や工場などの生産手段を国が管理する「社会主義」を掲げる旧ソ連(ロシアなどの前身)などの国々が対立する「冷戦」が始まっていました。敗戦後の日本を占領していたのは主にアメリカ軍でした。アメリカ軍は韓国の応援に力を注ぐため、日本に「警察予備隊」という組織を作るよう命じました。警察予備隊は52年に保安隊となり、54年に他の組織と一緒に自衛隊になりました。
自衛隊には現在、陸上、海上、航空の三つがあります。国の役所の防衛省に属し、防衛大臣が管理などを行います。トップとして率いるのは総理大臣です。
戦前の日本では、天皇がトップとして軍を率いるとされ、軍が勝手に動いて政治に影響を及ぼしました。こうしたことを避けるため、自衛隊は政治の監視を受け、現役の自衛官は自衛隊のトップの総理大臣や各大臣になれないといった決まりがあります。文民統制(シビリアンコントロール)といいます。
◇どれくらいの力があるの?
陸上兵力は14万人、海上兵力は艦艇(船)140隻(51万㌧)、航空兵力は主要な航空機360機です(2021年度末)。防衛にかかる費用(防衛費)は、1年間にその国で生み出されたモノやサービスの価値を合計した国内総生産(GDP)の1%を目安にしています。22年度は約5・4兆円です。
日本の防衛政策には、いくつかの基本的な考えがあります。まず「専守防衛」です。外国から武力による攻撃を受けて初めて、防衛力を用いるという考え方です。また防衛力を用いるときは必要最小限度にとどめるとされます。
次に、日本は「非核三原則」を掲げています。核兵器を持たず、作らず、持ち込ませず、というものです。 また日本は、国を守るため必要最小限度の武力しか持たず、他の国をおびやかすような強大な武力は持たないとしています。
加えて日本は、アメリカとの間で結んだ「日米安全保障条約」を防衛の基本に据えています。民主主義を尊重するなど価値観が同じで、経済的な関係が深く、核兵器を持つアメリカと関係を結ぶことで、日本に限らず東アジア全体の平和と安全を保つと考えられています。
条約に基づき、日本にはアメリカ軍の基地が置かれ、陸上兵力2万人と主な航空機150機があります。神奈川県の横須賀港を母港とする旗艦(艦隊の司令官が乗る船)「ブルーリッジ」などのアメリカ第7艦隊には、艦艇30隻(40万㌧)、主な航空機50機があります。
◇災害のとき助けてくれるよね
大きな災害があったとき、自衛隊は食べ物や水を運んだり、行方不明者を捜したりといった救援活動をします。災害派遣といいます。2011年の東日本大震災の被災地には、最大で10万人を超える隊員が派遣されました。
災害派遣は、新型コロナウイルスの感染拡大を抑えるためにも行われました。日本に出入りする人の検査や、陽性になった人の支援などに力を尽くしました。離島などで手当てができない救急患者を運ぶことなども災害派遣の一つです。
海外の災害でも緊急援助活動をしています。
また1992年に施行された「国際平和協力法(PKO協力法)」に基づき、国連の活動にも協力します。もめごとが起きた国で停戦の合意があった場合に限ったり、武力を使うのは身を守るためなど必要最低限度としたり、いくつかの条件の下で海外に派遣されます。住民の安全を守るなどが主な任務で、道路を造ったり住民に医療を提供したりします。
◇憲法との関係は?
自衛隊は、憲法9条に違反しないというのが国の考えです。9条は、国として自分たちの身を守る「自衛権」までは否定せず、自衛のため、必要最小限度の力は持てるという解釈です。
このため「どこまでが自衛か」「必要最小限度とは何か」という問題が注目されてきました。
2001年のアメリカの同時多発テロを受けて作られた「テロ対策特別措置法」や、03年にイラク戦争後の現地の復興を助けるために作られた「イラク復興特別措置法」、東アフリカ・ソマリア沖の海賊対策として09年に作られた「海賊対処法」など、自衛隊の活動範囲や内容はそのつど、法律を作って広げられてきました。
また自衛権を使える条件として国は長く、日本が明らかに攻撃され、対抗する他の手段がない場合だけ、必要最小限度の力でなら可能としてきました。しかし16年に自衛隊法などの法律が変わり(安保法制)、日本と密接な関係にある外国が攻撃されたとき、日本が攻撃されなくても自衛隊が出動できるとする「集団的自衛権」の考え方が取り入れられました。
現在、「反撃能力」(敵基地攻撃能力)が検討されています。相手のミサイル基地などを破壊する力のことです。反撃能力があれば相手が攻撃を思いとどまるという考え方がある一方で、外国を攻撃できる力は「自衛」の姿を大きく変えるという心配もあります。
◇予算が多くなるんだって?
国は6月、北大西洋条約機構(NATO)の国々が国防予算をGDPの2%以上にする目標を掲げていることに触れ、「防衛力を抜本的に強化する」という方針を出しました。そして岸田文雄総理大臣は11月、防衛費などの関連予算27年度に現在のGDPの2%に増やすよう、防衛大臣と財務大臣に指示しました。21年の日本のGDPは540兆円ほどなので、2%は10兆円以上になります。国の予算(22年度当初は107兆円超)の1割ほどを占める計算です。
現在、防衛省は23年度の予算として過去最高の5兆5947億円が必要としています。これ以外にも防衛力の強化策を求めていて、最終的にGDPの1%を超える6兆円台になる可能性もあります。
ロシアによるウクライナ侵攻や中国の台湾に対する動きなど、世界の安全と平和を脅かすできごとは後を絶ちません。このため、いざというときの備えの強化を求める声が出ています。また、近年の武力の争いでは、無人機(ドローン)やインターネットが大きな役割を果たすなど、特に技術的な能力が重要になっています。人工衛星など宇宙空間も無視できません。これらをまかなうには、たくさんお金がかかります。しかし国の予算には限りがあります。そこで税金を上げることも考えられています
(2022年12月07日毎日小学生新聞より)