一般のドライバーが有料で客を運ぶ「ライドシェア」が4月に条件付きで始まり、サービスを利用できる地域が広がっています。条件をなくし、全面的に解禁するかどうかの議論もされていて、6月には方向性が決まる見込みです。ライドシェアとはどんな仕組みで、タクシーとは何が違うのでしょう。これからの課題も探ってみました。
◇アプリを使うと聞いたよ。どんな仕組み?
ライドシェアを使うにはスマートフォンで専用の配車アプリを開き、出発地と目的地を入力して車の手配を依頼します。すると、近くにいる一般ドライバーの運転する車がやってきます。出発前に運賃が決まり、支払いは現金を使わないキャッシュレスで行います。運賃はタクシーと同程度。運行は、国から許可を受けたタクシー会社が担います。タクシー会社が採用した人に研修をして、運行を管理するのです。運行は、タクシーが不足している地域と時間帯に限られます。
車を運転するには「第1種運転免許」がいりますが、タクシー運転手は試験を受けて「第2種運転免許」を取る必要があります。これまでは第2種免許を持たない人が自分の車でお客を運ぶのは「白タク(白いナンバープレートのタクシー)」行為と呼ばれ、法律で原則禁止されていました。今回のライドシェアは、運行をタクシー会社に限るなど、条件を付けて白タク行為を認めたものです。
◇急に話が出てきたよね。どうして?
背景には、タクシーの運転手の不足があります。2020年以降、新型コロナウイルスの流行によって外出が制限され、タクシーの利用者は大幅に減りました。運転手は収入が激減し、仕事を辞める人が相次ぎました。また、運転手の高齢化もあります。全国ハイヤー・タクシー連合会によると、19年3月末で約29万人いた法人タクシー運転手は、23年3月末に約23万人と、4年間でおよそ2割減ったのです。
ところが、コロナ禍が落ち着くと、都市部ではビジネス、地方では外国人を含む観光客が増え、タクシーが必要とされ始めました。足りないことが問題となり、解決のため議論が急速に進んだのがライドシェアです。
ライドシェアは、10年にアメリカの企業「ウーバー・テクノロジーズ」が始めたのが最初です。日本のように条件付きではなく、安さや便利さから、中央・南アメリカ、ヨーロッパ、アジアなどへ広まりました。海外ではアプリの事業者がライドシェアを手がけるのが一般的で、ウーバーや中国の「滴滴出行」などは自社のアプリを提供し、世界各国でサービスを提供しています。
◇利用されているのかな
4月にまず東京都、神奈川県、愛知県、京都府の一部地域で、曜日や時間帯を限って始まりました。5月以降は、大阪市や広島市など都市部を中心とする8地域にも拡大。今後も利用できる地域は広がりそうです。
東京と横浜(神奈川県)、二つの地域でライドシェアのサービスを提供している「三和交通」では、4月8日から30日の間に300回を超える利用がありました。同社は配車アプリ「GO」を使っており、お客さんは「タクシーを呼ぶ」「タクシーかライドシェアを呼ぶ」のどちらかを選び、近くにいる方の車が迎えに行きます。「呼ぶ時に料金が確定していますし、ライドシェアでもOKという方が利用するので、これまでトラブルは一件もありません」(同社広報担当者)
同社では、ドライバーに300人くらいの応募があり、約半数を採用しました。すでに研修を受けた30人以上が自家用車でお客さんを運んでいます。副業として希望する30~60代の男性が多く、中には大学生もいるそうです。研修は10時間で、アプリや接客について学んだり、助手席に社員を乗せて車を運転し、運転のクセなどの注意を受けたりします。
◇全面解禁するなら、何が課題に?
今の仕組みは、運行地域や時間帯が限られるだけでなく、駅前などで客待ちをする、道端で手を挙げた人を乗せる、お客さんに頼まれて道順を変更する――などタクシーでは当たり前のことができません。これは、ライドシェアがタクシーを補う役割とされているからです。アプリでライドシェアを呼んでも、タクシーが通りかかったらキャンセルし、タクシーに乗る人もいるそうです。さらに便利になるように政府は、さまざまな条件をなくし、タクシー会社以外も参入できるようにするかどうか、話し合いを進めています。
全面解禁に対し、タクシー事業者からは「タクシーは多くの規制があり、今のライドシェアではそれを一般車両にも適用しています。全面解禁となった場合、同じ規制が当てはめられないとなれば、安全性が心配です」(三和交通広報担当者)といった指摘もあります。例えば、タクシーは3か月ごとの定期点検と年1回の車検が義務付けられており、ライドシェアの車も同じにするかは一つの課題です。事故時の責任や補償も課題となります。
◇「日本版」「自治体版」というのも聞くけれど…
今のライドシェアは、海外とは様子が違うので「日本版」と呼んでいるのでしょう。これとは別に「自治体版」と呼ばれるライドシェアが以前からあります。自治体版は、バスやタクシーが少ない過疎地で、生活の足を確保するため特別に認められた制度です。自治体やNPO法人などが自家用車を使って、有料で利用者を運ぶことができます。
ライドシェアとともに議論が進み、昨年12月、自治体などが頼めば企業でも運送できるようになるなど、ルールが変わりました。運送に対する支払いも以前はタクシーの約5割が目安でしたが、約8割に引き上げられ、企業が参入しやすくなっています。北陸新幹線の延伸で「加賀温泉駅」ができた石川県加賀市は、観光客の増加を見込んで自治体版を始めました。使いやすくなった制度を活用する自治体は、各地で増えています。(2024年05月22日毎日小学生新聞より)