◆2019年につくられた新しい地図記号
日本の地図を作っている「国土地理院」(茨城県つくば市)が、新しい地図記号「自然災害伝承碑」を定めました。
過去に地震や津波、洪水といった災害があった場所に建つ碑などを表しています。これからの災害に備えるため、身近にある碑を調べてみましょう。
国土地理院は全国の市区町村に情報提供を呼びかけ、2019年6月からウェブ上の「地理院地図」に自然災害伝承碑を掲載しています。画面左隅にある「情報」の中から「自然災害伝承碑」を選ぶと、地図上に地図記号=写真下=が表示されます。地図記号をクリックし、さらに碑の写真をクリックすると、建立年▽所在地▽伝承内容――などを見ることができます。
「多摩川決壊の碑」の位置に「自然災害伝承碑」の地図記号が表示されている地理院地図
◆多摩川土手にひっそり
私は毎日、通勤のため電車で多摩川を渡っています。多摩川に関わる災害があったかどうかが気になって調べてみると、東京都狛江市に「多摩川決壊の碑」があり、訪ねてみました。小田急線和泉多摩川駅から南東へ5分ほど歩くと、多摩川の土手に出ます。ランニングや犬の散歩をしている人を横目で見ながら、川のそばにひっそり建っている「多摩川決壊の碑」=このページ冒頭の写真=が見つかりました。
碑文には、1974年9月1日、台風16号による豪雨で多摩川が増水し、堤防が決壊したことが書かれています。住宅19棟が流されたそうです。当時の新聞を読んでみると、「濁流に消えるマイホーム」「多摩川が裏切るなんて」と大きな見出しで、水害の様子を伝えていました。
狛江市の担当者は「新しい人が移り住んできて、決壊したことを知らない人も多い。年月がたって忘れられてしまわないように、多くの人に水害があったことを知ってもらいたい」と話しています。
◆災害の教訓を生かして被害を免れた例も
2011年の東日本大震災では、住民が過去の災害の教訓を生かして被害をまぬがれたケースもありました。
明治と昭和地震の津波で大きな被害が出た岩手県宮古市の姉吉地区には、「此処より下に家を建てるな」と刻まれた石碑があります。住民たちは石碑より海側に家を建てず、東日本大震災で津波による住宅の被害は1軒もありませんでした。毎年、昭和三陸地震で津波が起きた3月3日前後、碑の前で慰霊祭を行ったり、そうじをしたりして、犠牲者を出さなかった地域もあります。
◆専門家「暮らしの一部に」
東北大学災害科学国際研究所准教授の佐藤翔輔さんは「碑を『造った』『置いた』だけでは効果がなく、地域の営みや習慣の中に定着させ、生活の一部にすべきです」と指摘します。
関係する自治体の取り組みを調べたり、防災地図を作ってみたりして研究を進めましょう。
【篠口純子】
(2019年7月26日毎日小学生新聞「自由研究お助け隊」より)