神田外語キャリアカレッジは、神田外語大学や神田外語学院を母体とする神田外語グループの一事業体として、語学を起点にグローバル社会における課題の解決やプロジェクトを推進できる人材の育成に取り組んでいます。今回はそんな当校の代表、仲栄司のグローバルビジネスでの体験談をお送りいたします。グローバル環境の中で仕事を進める上でのヒントや異文化についての気づきなど体験談を交えながら繰り広げられる世界には、失敗談あり、ハラハラ感あり、納得感あり。ぜひお気軽にお読みください。
毎年、現地法人では、年初に翌年度の年間予算を策定していました。会計年度は4月から3月でしたので、1月に策定するのです。
イタリアに移り、半年が過ぎようとした1月、私は同僚のイタリア人と翌年度の予算作業を行っていました。まずは売上予算を決めます。当時のNECイタリア社は、通信系(携帯電話が主)とIT系(プリンター・モニター他)の2つの営業ラインがあり、売上予算はそれぞれの営業ラインがドラフトを策定し、各営業マネジャー、NO.2のGM及びコーポレートプラニング部の私との間で協議して最終ドラフトをまとめ、社長の承認を得て、予算案を策定します。
各営業ラインから上がってきた売上予算案を最初見たとき、私は8月に売上数値が入っていなかったので、「この売上予算はおかしいから見直ししてください」と言いました。するとGMも含めイタリア人の同僚はみな口をそろえて「何もおかしくない。8月の売上がゼロなのはイタリアでは常識だ。8月はどのお店も4週間店を閉じて休暇に入る。こんなときに売上が立つわけない。だから8月の売上はゼロなんだ」と言うのです。ちょうど引っ越した時期が7月末で、8月はレストランもほとんどが閉まっていて必需品を購入するのに苦労したことを私も経験していましたので、この説明には反論できませんでした。
結局、8月の売上はゼロで提出しましたが、本社からは「どういうことだ。やる気があるのか」と言われる始末。しかし、イタリアの現実は現実ですので、8月売上ゼロの予算案を押し通しました。イタリア会社の社長からは、「本社はイタリアの状況を理解すべき。それを伝えるのが私や仲君の役割だ」と言われ、私も本社の反論を突っぱねました。携帯電話事業が初年度に大きく伸びたため、売上予算をはるかに超えるかたちで達成し、本社に貢献していたこともあり、本社サイドも仕方なく、我々の売上予算案を吞みました。
イタリア人は夏休みをだいたい4週間(8月いっぱい)取ります。イタリアの会社なら4週間オフィスを閉じるところもあります。我々は日本の子会社でしたので、オフィスを2週間閉じました。
翌年の8月のこと。携帯電話の新製品をローンチしたのですが、アンテナの感度がよくなく、通話品質の問題が発生し、大問題となりました。バカンスで携帯電話を使う人も多く、どうしてくれるんだと大クレームの電話がオフィスに殺到しました。
肝心のエンジニアであるブレべッティは夏季休暇中でオフィスにいません。しかし、彼に頼るしかない我々は、休暇中の彼に電話し、仕事に出てくるようお願いしました。ブレべッティは事態の緊急性、深刻性に「わかった。すぐにオフィスに飛んで帰る」と夏休み返上で対応してくれました。日本からも技術者を派遣してもらい、ブレべッティと共に大至急問題に当たってもらいました。
ブレべッティは、幸いにもアラッシオというリビエラ海岸で休暇中でしたので、ミラノには車で3時間で戻って来ることができました。イタリア人はいい加減と思われていますが、やるときはすごい力を発揮します。このとき、ブレべッティは一週間ほどオフィスにいて、ほとんど徹夜状態で問題に当たりました。そのお蔭で問題が究明され、改善策の目途がたち、フィールドに出た商品をリコールし、Modification(改良)作業を実施しました。お客様からのクレームも次第に収まるようになりました。
私はこのときのブレべッティのパワーと真摯な姿勢にプロの矜持と責任の強さを痛感しました。それは頼もしく、やるときはしっかりやるイタリア人魂を見たような気がします。
この時の迅速かつ真摯な対応が市場からも評価され、携帯電話事業は大きなピンチを乗り越え、盤石な事業基盤を築くこととなりました。8月は本来、売上予算ゼロ、バカンスシーズンですが、この年ばかりはイタリア人の底力を見せつけられる月となりました。
著者情報:仲 栄司
大学でドイツ語を学び、1982年、NECに入社。退職まで一貫して海外事業に携わり、ドイツ、イタリア、フィリピン、シンガポールに駐在。訪問国数は約50カ国にのぼる。NEC退職後、 国立研究開発法人NEDOを経て、2021年4月より神田キャリアカレッジに。「共にいる時間を大切に、お互いを尊重し、みんなで新たな価値を創造していく」、神田外語キャリアカレッジをそんなチームにしたいと思っています。俳句と歴史が好きで、句集、俳句評論の著書あり。