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【ニュースがわかる2024年5月号】巻頭特集は10代のための地政学入門

グローバルの窓 Sie sind spitze! (You are great!)

 神田外語キャリアカレッジ は、神田外語大学や神田外語学院を母体とする神田外語グループの一事業体として、語学を起点にグローバル社会における課題の解決やプロジェクトを推進できる人材の育成に取り組んでいます。
今回はそんな当校の代表、仲栄司のグローバルビジネスでの体験談をお送りいたします。グローバル環境の中で仕事を進める上でのヒントや異文化についての気づきなど体験談を交えながら繰り広げられる世界には、失敗談あり、ハラハラ感あり、納得感あり。ぜひお気軽にお読みください。

 

 1983年にNECへ新卒で入社して2年目、日本からドイツのビジネスをサポートしていたときのこと。金曜日の朝にドイツからテレックスが届いていました。


※テレックス・・・telegraph-exchangeの略。電話の自動交換技術と、電信の伝送および印刷電信技術とを組み合わせた記録通信方式。EメールやFAXが登場する以前に普及した海外との通信手段。

 内容は「来週月曜日からの展示会に参加することにしたので、大至急カタログを送ってくれ」というもので、「月曜日?!」と私はおもわず叫んでしまいました。それはいくらなんでもないだろうと。

 ドイツのビジネスはまだ小さく、少しでも商売の機会を取り込んでいく必要がありましたが、それにしても今日の明日という要求には参りました。まず集められるだけカタログを集め、500部取り寄せることができました。すぐに梱包しましたが、不器用な私が梱包したカタログはゆがんだ形になってしまいました。
 でも、そんなことに構ってはいられません。その日(金曜日)の午前中に手配を終え、ドイツへ郵送する手続きをとりました。間に合わないかもしれませんが、とにかく最善を尽くすしかありませんでした。

デュッセルドルフの中を流れるライン川に沿って歩く人々©PATRIK STOLLARZ / AFP

 月曜日の夕方、ドイツからテレックスが飛び込んできました。

“Sie sind spitze !”

 英語で”You are great !”の意味です。なんともうドイツにカタログは到着したというのです。時差が8時間あるから、月曜日の夕方はドイツでは月曜日の朝。金曜日中に日本から発送できたため、週末をはさんで月曜日に到着したというわけです。ドイツの同僚、ヴァイトは強面でやや気性の荒い性格の持ち主でしたが、このときばかりはものすごく感謝してくれました。これ以降、彼は私を頼りにしてくれ、相談事も時々来るようになったのです。

 上司から「外国の人と仕事をするときは二つのことを徹底的にやれ!」と言われました。一つ目は長所を見るようにすること。そして二つ目は相手が困っているときは徹底的に助けること。この二つを実行していれば、海外での仕事はうまくいく、と教えられたのです。

 カタログの件は、まさに私に上司の言葉をなるほどと思わせる出来事でした。

 私は大学で4年間、ドイツ語を専攻しましたが、フレーズはほとんど忘れてしまいましたが、“Sie sind spitze”だけは今もって覚えています。あの月曜日の夕方、ヴァイトと電話で喜びを分かち合えたことは何ものにも代えがたい瞬間でした。まさに”spitze”の時間でした。

著者情報:仲 栄司
大学でドイツ語を学び、1982年、NECに入社。退職まで一貫して海外事業に携わり、ドイツ、イタリア、フィリピン、シンガポールに駐在。訪問国数は約50カ国にのぼる。NEC退職後、 国立研究開発法人NEDOを経て、2021年4月より神田キャリアカレッジに。「共にいる時間を大切に、お互いを尊重し、みんなで新たな価値を創造していく」、神田外語キャリアカレッジをそんなチームにしたいと思っています。俳句と歴史が好きで、句集、俳句評論の著書あり。

※メイン画像は当時オフィスがあったデュッセルドルフ中央駅