【ニュースがわかる2024年10月号】巻頭特集は「発明が世界を変える」

「令和の王者」VS「平成の王者」 将棋の王将戦、激突の行方は【ニュース知りたいんジャー】

将棋の第72期ALSOK杯王将戦七番勝負(毎日新聞社、スポーツニッポン新聞社主催)が始まりました。昨年、史上最年少で5冠に輝いた藤井聡太王将(20)に挑むのは、史上初の永世7冠を達成し、「毎小将棋道場 将棋名人への道」でおなじみの羽生善治九段(52)。「令和の王者」と「平成の王者」の対決は、藤井さんの1勝からスタートしました。将棋界は今、最高に沸いています。【山田大輔】


◇王将戦って?

 将棋には名人、王将など八つのタイトルがあり、勝者はタイトルの称号で呼ばれて特別扱いされます。藤井さんは今、誰よりも多い5タイトルを持つ王者です。一方、羽生さんはタイトルを99回も獲得し、25歳だった1996年には、当時の7タイトルを全て制覇しました。完全制覇は羽生さんだけの偉業ですが、その5か月後には一つを奪われました。圧倒的に強くても、タイトルを持ち続けるのはものすごく難しいことです。

 タイトル戦は、リーグ戦(総当たり)やトーナメント(勝ち抜き)などで挑戦者を一人に絞り、タイトルを持つ人と一騎打ちで決着をつけます。王将戦は、2段階の予選で勝ち抜いた3人と前年のリーグ上位4人の計7人で挑戦者を決めるリーグ戦をします。一騎打ちは、先に3勝すれば勝ちの「五番勝負」もありますが、王将戦は先に4勝した方が勝ちの「七番勝負」で、全国各地を転戦します。

 羽生さんは王将を通算12回獲得し、原則引退後に名乗れる「永世王将」の資格を史上2人目で手にしました。藤井さんは昨年王将を獲得し、今回は初の防衛戦です。

◇どんな盛り上がりなの?

 羽生さんは歴代断トツの将棋界の「レジェンド(生きた伝説)」です。2018年12月から無冠ですが、今回はタイトル100回の大記録をかけ、リーグを6戦全勝して挑戦権をもぎ取りました。対する藤井さんは、これまでタイトル戦に11回出場し無敗の強さで、史上最年少での全冠制覇に向けて勝ち続けています。タイトル戦での「新旧対決」は、羽生さんが若かったころには中原誠十六世名人との対戦が果たせませんでした。それだけに羽生さん自身、次の世代のトップ、藤井さんとの「ひのき舞台での対戦」を何年も前から楽しみにしてきました。

 将棋ファンが待ち望んだ「夢の対決」です。第1局は8、9の両日、静岡県掛川市の掛川城二の丸茶室でありましたが、7日の前夜祭は定員の約100倍の申し込みが集まりました。2人の対決は過去8回あり、藤井さんが7勝1敗でリードしていますが、タイトル戦の対決は初めてです。

 王将戦でリーグ全勝の挑戦はこれで9回目で、5回は挑戦者が王将を奪い取り、2回は3勝4敗と粘りました。今回を含む4回は、羽生さんが挑戦者、王将の双方で出ています。


◇藤井さんはどんな人?

 2016年、史上最年少の14歳2か月でプロ棋士になって以来、ひたすら「史上最年少」の戦績を重ねてきました。デビュー戦から29連勝の新記録を出し、20年7月に最年少で初タイトル(棋聖)を獲得。さらに王位、叡王、竜王、そして昨年2月にストレート勝ちで王将を獲得しました。12月には羽生さんを抜いて史上最年少でプロ入り通算300勝(59敗)を記録。来月からの棋王戦五番勝負で、渡辺明棋王(名人)に挑戦します。

 愛知県瀬戸市出身で5歳の時、祖父母に将棋を教わり、地元の将棋教室に通い始めました。当時、羽生さんが書いた本「羽生の頭脳」で学んだといい、今も羽生さんを「スーパースター」と呼び、自分にない柔軟さ、戦い方の幅の広さを見習いたいと尊敬します。

 今や敵なしの強さですが、十八世名人の資格を持つ森内俊之九段は「年々レベルが上がっている。これだけ高いレベルにあって、さらに上を求める姿勢はすごい」とたたえます。大変な場面で崩れない強さが磨かれ、第1局で立会を務めた久保利明九段も「安定感がさらに増している」と話します。持ち時間を使い切らず、余裕を持って勝つ場面も増えてきました。


◇羽生さんはどんな人?

 埼玉県所沢市出身で、1985年に史上3人目の中学生棋士になり、96年の第45期王将戦で7冠制覇を達成しました。永世王将に加え、名人、竜王、王位、王座、棋王、棋聖でも「永世」の資格を獲得し、2018年に国民栄誉賞を受賞。文字通り、時代を作ってきた名棋士です。21年度にプロ入り後初めて負け越し(14勝24敗)となりましたが、昨年6月にデビュー戦から36年4か月で将棋界初の1500勝(654敗)を達成。羽生さん本来の調子に戻っていると言われます。羽生さん自身も「今までの指し方と違うこともやっていくという気持ちを持って臨んでいますが、それがいい方向に進んでいるのかなと思います」と話します。

 数年前から将棋のAI(人工知能)ソフトを使い、最新の戦い方の研究に取り組む一方、昔流行して今は人気が下火の戦い方も活用し、「その使い分けが非常にうまくいっている」と森内さんは指摘します。終盤の意表を突く逆転術は「羽生マジック」と言われ、豊富な経験をもとに多彩な戦い方を自由に操る姿に、対戦する棋士は苦労するそうです。

◇どんな結果になりそう?

 王将戦は1局が2日間、持ち時間は1人8時間の長い戦いで、わずかなミスも許されない一手一手の連続です。頭を激しく使うので、対局中の「勝負めし」やおやつも大事です。今回も2人が何を選ぶか注目されています。昨年の王将戦で藤井さんが頼んだケーキは、掛川市がふるさと納税の返礼品にすると寄付が急増しました。

 タイトル戦で31歳9か月の年齢差は歴代2番目。「歴史的対戦」ですが、久保さんは「2人とも、前夜祭からいつもと変わらず、自然体で対局に臨んでいる」と話します。深浦康市九段は「おそらく羽生九段がいろんな戦型(戦い方)を持ってくるので、藤井王将が経験したこともない将棋もかなり出てくるのではないか」と展望します。第1局を終えた藤井さんは「予想していない手を指されることも多く、自分にはないものを持たれていると感じた」、羽生さんも「一手一手深い読みの裏付けで指されていると感じた」と話し、互いに「トップスターと戦える」という尊敬の念がこもります。久保さんは「接戦になってどちらかが勝つという(フルセットの)展開になる」と期待しています。


………………………………………………………………………………………………………


◇第1局の勝負めし(昼食)とおやつ


■藤井さん
 <1日目>
▽火の羊羹三種、アイスコーヒー(午前)
▽掛川牛の麻婆豆腐、サラダ、スープ、ご飯
▽CHABATAKEのケーキ(午後)
 <2日目>
▽掛川桜のプリン、いちごのフレッシュジュース(午前)
▽しあわせの青い玉子のオムライス
▽パイナップルジュースとアイス紅茶(午後)

■羽生さん
 <1日目>
▽掛川桜のプリン、ホットコーヒー(午前)
▽遠州黒豚と掛川野菜のトマト煮込み、サラダ、スープ、パン
▽火の羊羹三種(午後)
 <2日目>
▽クッキーアソート(午前)
▽うな重
▽CHABATAKEフィナンシェ、ホットコーヒー(午後)

(2023年01月18日掲載毎日小学生新聞より)