サブオと旅する「昭和100年」【月刊ニュースがわかる3月号】

拉致被害者、帰国20年【ニュース知りたいんジャー】

北朝鮮に拉致(無理やり連れ去ること)された被害者のうち5人が日本に帰国してから、10月15日で20年になります。しかし、今なお拉致されたまま安否が分からない人がいます。拉致問題は解決に向かうのでしょうか。【小山由宇】

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◇拉致問題とは…

 北朝鮮が日本人を強引に連れ去った事件です。1970年代から80年代にかけて多発しました。目的は、北朝鮮がスパイ活動などのため、自国の工作員に日本語を学ばせるためだった、などとされます。実際、日本人になりすまして87年に韓国の航空機を爆破した金賢姫元工作員は、拉致被害者から日本語の教育を受けたと話しています。
 日本政府が、拉致被害者と断定した日本人は17人です。断定できないものの、「拉致の可能性が否定できない人」も871人(今年8月現在)います。
 国連の報告によると、拉致被害者の出身国は日本だけでなく、韓国やタイ、シンガポール、フランスなどにも及んでいます。

◇5人帰国したと聞いたよ

 北朝鮮は長らく拉致を否定してきましたが、2002年9月17日に状況が変わります。小泉純一郎総理大臣(当時)が、日本の総理として初めて北朝鮮を訪れ、その時の首脳会談で金正日総書記(故人が拉致を認め、謝罪したのです。それから約1か月後の10月15日、5人が24年ぶりに帰国しました。
 また首脳会談では「日朝平壌宣言」という合意がまとまりました。宣言には拉致の再発防止や、北朝鮮が開発する核・ミサイル問題の解決の必要性が盛り込まれたほか、「日本側が国交正常化の後、経済協力を実施する」と記されました。
 北朝鮮が拉致を認めたのは、厳しい経済の立て直しに向け、日本と国交を正常化したかったから、とみられています。

◇なぜ帰国できない人がいるの?

 日本政府が拉致被害者と断定したのは17人ですから、少なくとも12人が帰国できていません。北朝鮮は「生きている被害者は5人だけだった」と主張し、それ以外の人は「死亡した」か「そもそも北朝鮮に入っていない」と言い張っています。
 これに対し、日本政府は「死亡と説明する根拠が極めて不自然で、納得のいくものではない」と疑っています。まだ生きている人がいるとみて、北朝鮮に拉致の再調査を求めています。

 ただ、北朝鮮は「拉致問題は解決済みだ」とかたくなです。日本の政府関係者は「北朝鮮はすべての拉致被害者が帰国し、スパイ活動など同国にとって不都合なことが明らかになることを恐れている」と分析しています。


 ◇日本政府は今後どうする?


 北朝鮮には、核開発やミサイル発射といった問題もあります。日本は、北朝鮮との輸出・輸入を禁止するなどの経済制裁をして、拉致問題を含めて解決すべきだと迫っています。
 制裁と並行して対話もしてきました。日本と北朝鮮の外務省幹部は2014年、スウェーデンで協議し、同国の首都にちなんだ「ストックホルム合意」を結びました。北朝鮮が拉致被害者が生きているかどうかなどを再調査し、日本は制裁の一部を解除するという内容です。
 しかし、北朝鮮はほとんど動かないまま、16年に核実験やミサイル発射を実施します。日本が制裁を強化すると、北朝鮮は再調査の全面中止を発表しました。
 日本政府は、北朝鮮トップの金正恩朝鮮労働党総書記と直接交渉をしないと、事態の打開は難しいとみています。岸田文雄総理大臣は「私自身、条件を付けずに金総書記と直接向き合う決意だ」と繰り返し、北朝鮮の反応を探っています。
 

◇被害者家族の思いは

 帰国が実現していない被害者の中に、13歳のときに拉致された横田めぐみさんがいます。母親の早紀江さん(86)は9月6日の記者会見で「いつまでたっても解決しない、という思いしかない。(最近は)言いようのないいらだちが多い」と話しました。
 日本と北朝鮮の交渉が進まず、早紀江さんをはじめ、高齢化が進む被害者家族は焦りを募らせています。めぐみさんの父親で「拉致被害者家族会」の初代代表・滋さんは2020年6月に87歳で亡くなり、2代目代表の飯塚繁雄さんも21年12月に83歳で死去しました。
 被害者家族にとっては、世論の関心が薄れていくことも心配です。世論の後押しがなければ、アメリカなど他国の関心も低下してしまう恐れがあります。日本政府の関係者は「事件を風化させないようにするのも政府の責任だ」と話しています。(2022年10月05日掲載毎日小学生新聞より)