日本全国、世界各地から多数のマグロが集まる豊洲市場(東京都江東区)。その中から「いいマグロ」を選んで買い、飲食店や魚屋の好みに合ったマグロを売り渡すのが、仲卸人の仕事です。(「Newsがわかる2025年5月号」より、文章中の所属・肩書などは掲載当時のものです)
海で漁師がとった魚は、近くの港や都市の消費地にある魚市場に“上陸”します。豊洲の魚市場はその一つ。毎日、水産卸売業者が漁師から買ったマグロを、市場のセリ(競争で値をつけさせ、最高の値をつけた人に販売する取引方法)に出します。
私が勤める「やま幸」はマグロ専門の仲卸業者で、豊洲市場のセリに出たマグロを買い付け、1000ほどの飲食店や魚屋などに売り渡しています。
仲卸人の仕事は大きく分けて三つです。一つは、セリ場に並んでいるマグロの下見(目利き)。事前に「このマグロならこのくらいの値段で買おう」と決めます。二つ目は、セリで目をつけたマグロをセリ落とすこと。1匹あたり数秒で値が決まるセリはスピード勝負です。三つ目は、セリ落としたマグロを解体しブロックや柵に切り分けて梱包。配送準備を整えて出荷します。

恩田弘陽さん(中央)が「大好きなマグロに関わりたい」と、やま幸に入社したのは7年前。築地市場閉場の年だった。やま幸のマグロ仲卸業務は、26人の社員が従事。10代~20代前半の若者たちが活躍し、活気にあふれている

セリ場から180キロのマグロを荷台に載せて運ぶ、1年目の大町真司さん

3人がかりで頭と四つの身に解体する。包丁を握るのは2年目の松倉翼さん(右)
身を切るまでマグロの良しあしはわかりません。そのため、下見での目利きは重要です。懐中電灯ではらの奥を照らして中の“景色”を見たり、尾の断面をチェックしたり、触って身の弾力や脂ののりを確かめたり、切ったらどうなるかを想像したりして目利きします。
加えて、「とにかく色がいい」「脂が多め」などお客さんそれぞれのマグロの好みも考えます。それでも切ってみたら、ダメだということもあるのです。
すべてのお客さんの好みを把握している社長は、その注文通りかを確かめながら、必ず最後の切り分けをします。私は日々、その横に張り付いて、社長の表情とマグロを交互に見て、また言葉を一つも聞き逃すまいと勉強しています。
目標はいいマグロを見極めてセリ落とし、お客さんに最後まで使い切って満足していただくこと。独り立ちできる日を目指しています。

最後にマグロを切り分ける社長の山口幸隆さん(中央)をサポートする恩田さん(右)。やま幸は山口さんの的確な目利きぶりが広まり、国内外の高級すし店がこぞって使う仲卸に成長した。40年以上の経験に基づく山口さんの頭の中にある膨大なマグロに関する知識を、若手社員が日々、吸収している


取材・文:千葉潤子 写真:武市公孝