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【ニュースがわかる2024年5月号】巻頭特集は10代のための地政学入門

「うんこ」解放、子どもひきつけ 映像ディレクター・古屋雄作さん【やる気レシピ】

例文のすべてに「うんこ」という言葉を使った小学生・幼児向けの「うんこドリルシリーズ」(文響社)が人気です。2017年の発売以来、累計発行部数は78種類で740万部超。なぜ「うんこ」は子どもを引きつけるのか。作者の古屋雄作さんに聞きました。

――うんこドリル誕生のきっかけを教えてください。

 ◆20年近く前ですが、一人で「うんこ川柳」というネタをひたすら作っていました。上の句はすべて「うんこが」か「うんこを」。例えば、「うんこがうじうじ悩みます」とか「うんこをぶりぶり漏らします」とか。アイデアが次々と浮かんできて800ぐらいは作りました。それで15年ごろに、中高時代の同級生だった文響社の山本周嗣社長から本にしないかと打診があり、紆余(うよ)曲折を経て漢字ドリルになりました。

 ――なぜうんこに目をつけたのですか。

 ◆僕は映像ディレクターとしてお笑い系のDVDも作っていますが、結局一番シンプルであり、笑いの原点というのは「うんこ」だと思うんですよ。「うんち」でも「ウンコ」でもだめ。圧倒的に「うんこ」です。なんといってもオーラがあります。

――私の息子もうんこドリルを夢中でやりました。なぜ子どもは「うんこ」にひかれるのでしょうか。

 ◆大人から「それは口にするな、言うな」と最初に規制される言葉だからだと思います。抑え込まれると言いたくなる。反骨心ですね。うんこドリルは「うんこ」を解放したんです(笑い)。

――例文づくりで工夫した点を教えてください。

 ◆小学1~6年で習う漢字は1006字ありました。1字につき3本の例文を作るので3000本以上必要です。それプラス1000本ぐらい考えましたが、食べる、臭いといった不快感を与える言葉は使わないようにルールを決めていました。もちろんギリギリセーフのものもあります。例えば、「火」の例文だと「火であぶったうんこをどうぞ」。「食べる」とは書いていない。ある程度踏み込まないと子どもも飽きてしまいますから。

――子どもを引きつけるためのコツは何ですか。

 ◆切り口の多彩さとワクワク感を途切れさせないことですね。次にどういう例文が出てくるんだろうと思ってもらえるように心がけました。ドリル全体がいろんなキャラクターが出てきてストーリー仕立てにもなっています。別の学年のドリルにも横断して登場するキャラクターもいます。「冒険家」もその一人ですが、小学5年の漢字ドリルのラスト間際に「うんこ大陸に行った冒険家からの連絡が『絶』えた」という例文があり、そのままドリルは終わってしまいます。6年生のドリルをやってみたくなりませんか? 少年漫画的な手法です。

――引きつける例文とは。

 ◆前後関係をいろいろと想像してしまうのが良い例文です。また、躍動感のある情景が描けていると例文に力が宿ります。例文コンテストの寸評を担当していますが、「文」の例文で最優秀に選ばれたのは「文豪にうんこを投げつける」。「いったい何があったのか?」と人物関係や経緯を想像させますよね。うんこを投げつけるくらいなのでよっぽどのことがあったのでしょう。情景に躍動感もある。「文豪」という重々しい単語を使用しているのもポイントです。こういう単語は「うんこ」との相性が良いのです。

――映像ディレクターの視点で教えてください。視聴者を引きつける番組とは。

 ◆ミステリーとサスペンス。謎と緊張です。冒頭、主人公が死んでいるシーンから始まると、見る側はだれに殺されたのかを知りたくて見続けますよね。あとは「なぜかこのキャラクターは家族の話を絶対にしない」というだけでも立派な謎ですし、その秘密をちらちら見せれば緊張感は持続する。ドラマや漫画原作を書く時はこういうことばかり考えています。うんこドリルの例文づくりにも根底は通じているかもしれません。飽きさせないためには絶えず「工夫」が必要だと思います。

――もし小学校で授業をするとしたらどんな内容でやってみたいですか。

 ◆うんこ例文を考えさせる授業をしてみたいですね。そして金、銀、銅のメダルをあげる。そこから未来のうんこクリエーターが生まれるかもしれません。【聞き手・三木陽介】

(2020年5月25日掲載毎日新聞より)

人物略歴

古屋雄作(ふるや・ゆうさく)さん

1977年愛知県生まれ。上智大卒。書籍や漫画原作、テレビドラマなどさまざまな分野で活動。代表作にDVD「スカイフィッシュの捕まえ方」「人の怒らせ方シリーズ」、特撮ドラマ「神話戦士ギガゼウス」(関西テレビ)など。