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【ニュースがわかる2024年5月号】巻頭特集は10代のための地政学入門

AIで学習効率化、助言に人の力を【やる気レシピ】

人工知能(AI)を使った学習アプリが急速に普及している。その中で「atamaplus(アタマプラス)」(東京都)のアプリ(プロダクト)は異彩を放っている。
それは、AI任せにせず、あえて「人」を介在させている点だ。「人」にしかできない役割があるからだという。その狙いとは? 創業者で代表取締役の稲田大輔さんに聞いた。【聞き手・三木陽介】

 ――AIを使った学習の仕組みを教えてください。

 ◆基礎学力の習得にAIを活用するのです。タブレットやパソコンで、生徒に基礎問題を解いてもらい、その結果からAIが弱点を分析します。苦手分野を克服するために、次にどんな問題をやればいいのか、どんな講義動画をみればいいのか、最適な教材をAIが選んでくれます。一人一人に合ったカリキュラムで学べるのです。

 ――「人」はどういう形で関わるのですか?

 ◆私たちのプロダクトは今、予備校や塾で使ってもらっていますが、まず生徒一人一人が「目標」を設定します。どの科目をマスターしたいかという長期目標を画面上で入力する。次に、具体的にどの単元を学習するかという短期目標を設定します。目標を立てる際、予備校や塾の講師が、生徒と一緒に考え、励まし、アドバイスします。目標設定後も進捗(しんちょく)状況の管理や学習方法のアドバイスなど目標に向かって〝伴走〟する役割をしてもらいます。AIがティーチング、人がコーチングをするというイメージです。

 ――AI任せではだめなんですか?

 ◆中高生の段階なら、適切なサポートをすれば、勉強ができない子はいないと私は思っています。そのためには、講師がその生徒が自分の力で解けるレベルを把握し、それに合った目標を設定してあげて「できた!」という達成感を味わわせてあげることが大切です。そうなれば、やる気が出てくるものです。この部分はAIだけではサポートしきれません。人間の力が必要なのです。適切なアドバイスができるように、講師側は、それぞれの生徒の学習の進み具合を把握できるようになっています。

 ――なぜこのプロダクトの開発を思いついたのですか?

 ◆これからの子どもたちが社会で活躍するのに必要な力は、基礎学力と「社会でいきる力」だと思っています。ですが、今の学校の先生たちは忙しくて両方教える時間が足りない。それならテクノロジーの力で基礎学力を学ぶ時間を圧縮できれば、その分を社会でいきる力の育成に充てられると思ったのです。

 社会でいきる力をつけるには、まず土台として基礎学力が必要なので、このプロダクトを作りました。基礎学力の習得にかける時間を短縮し、浮いた時間を発展学習や自分を磨く時間などに充てられるようにするのが狙いです。

 ――自分で塾を作って教える考えはなかったのですか?

 ◆私の目標は教育を通して新しい社会を作ることです。そのためには何億人という規模での教育が必要です。自分が先生になって目の前の生徒に教育するというよりも、私は社会全体を変える仕組みを作りたかったのです。

 ――プロダクトを使って勉強している生徒たちの反応はどうですか?

 ◆導入している塾や予備校は2300教室(2021年3月時点)にまで増えました。私たちは常に、現場に行って生徒の反応をみているのですが、1時間から1時間半、びっくりするぐらい集中して勉強しています。ゲームに没頭している感じに近いかもしれません。

 ――それはなぜですか?

 ◆今まで分からなかったことが分かる喜びを感じているからだと思います。私は、勉強は最高のエンターテインメントだと思っています。

 ――現場の「視察」をどういかすのですか?

 ◆例えば、ある単元の講義動画をみてもらった後に出題された問題の正答率がなかなか上がらない場合、動画の内容が悪いからなのか、問題の難易度のせいなのか、改良を重ねます。生徒の反応をみて字のサイズやフォントを変える時もあります。

 ――稲田さんは子どもの頃、勉強は好きでしたか?

 ◆公式を丸暗記するのは嫌いでしたが、原理原則を理解すれば難しい問題でも解けるようになっていくのは好きでした。特に数学で学んだ原理原則が、物理の「放物線運動」にいきてくるのを理解した時はとてもワクワクした記憶があります。

(2021年4月26日掲載毎日新聞より)

人物略歴

稲田大輔(いなだ・だいすけ)さん

1981年東京都生まれ。東京大大学院情報理工学系研究科修了。三井物産に入社して教育事業を担当し、海外EdTech事業責任者などを務める。2017年4月に「atamaplus」を創業。20年12月に学校法人立命館と高大接続に関し連携協定を締結。