「うちの子、なかなか勉強してくれなくて」――。そんな悩みを抱えるお母さんたちを相手に、教育評論家の石田勝紀さんは全国を回り年100回以上の座談会を開催しています。石田さんの「やる気レシピ」のポイントは「成長実感」。どういうことか教えてもらいました。
――座談会のきっかけは。
◆東洋経済オンラインで、悩めるお母さんの質問に答える「ぐんぐん伸びる子は何が違うのか?」という連載記事を書いているのですが、直接Q&Aができる、ゆるい感じの座談会をやりたいと思ったんです。それで2016年5月から「Mama Cafe」といってカフェでお話をするスタイルで始めました。私自身とても勉強になります。
――子どもの勉強や受験に関してはどんな相談がありますか?
◆宿題をしないとか、ゲームばかりしているとか……。東京など大都市圏の小中学生のお母さんは、さらに受験が入ってきます。学校で勉強する内容は教わっても、勉強の方法を知らない子が多いですね。大人がやり方を教えず「宿題やれ」、覚え方のコツを教えず「覚えてこい」は大変です。「漢字テストがあるから覚えてきなさい」と言われた経験ありますよね。覚え方のコツは教わりましたか?
――いえ、とにかく「書け」と。
◆本番のテストが繰り返し100回書くことならそれはいい練習です。何度も書いて覚えるのも間違いではないですが、効率が悪いものです。それよりテストを繰り返した方がいいでしょう。高校生が暗記用のペンと下敷きを使ったり、単語カードを使ったりしますが、あれもテストを繰り返しやっているのです。記憶するだけの勉強が良いか悪いかは別の話ですが。
――やる気に関しての悩みも多いでしょう?
◆本当に多いですね。でも親は「どうしたら」の前に「なぜ」を考えるべきでしょう。勉強がつまらないのはなぜか。「成長実感」がないからです。ゲームが楽しい理由の一つに、数字や得られるアイテムなどで成長実感が得られるように工夫されていることがあります。特に小学生に言えることですが、ただ勉強させられている状況は、太平洋のど真ん中でどこへ行くかわからないままボートをこいでいるようなものです。それでやる気になれるでしょうか。
――親を例えるなら?
◆後ろでナビゲーション付きのクルーザーに乗り、「真っすぐ! 次は右! 遅い!」と拡声器で指示を出している姿とダブります。学校で漢字の宿題が出て、大人はそれが大事だと分かっているから「やりなさい」と言う。でも、子どもにとっては「終わりはいつ来るの?」という感じではないでしょうか。そこで私は「こども手帳」を考案し、出版もされました。やるべきことを子どもが自ら書き、達成できたら赤で消し、できた分をポイントで精算するという内容です。金品との交換ではなくグラフ化するだけでもいいでしょう。覚えようとする漢字を紙に並べて書いて壁に貼り、覚えたら赤で消していく方法もあります。
――言葉のかけ方でコツは。私は4歳の息子に「早くして」「ちゃんとして」と口癖のように使ってしまいます。
◆私は自己肯定感を破壊する三つの「呪いの言葉」として「早くしなさい」「ちゃんとしなさい」「勉強しなさい」を挙げています。ゼロにするのは難しいので、まずは減らしてみましょう。ただ、なかなか難しい場合はそれらの言葉の代わりに「すごいね」「さすがだね」「ありがとう」「助かった」といった「魔法の言葉」を意識してほしい。そういう言葉を増やすことで、子どもの気持ちは上がり出すでしょう。
――奮闘している親たちに言葉をかけるとすれば。
◆自己肯定感は子どもに限らず親にも必要です。子育てに関して知らないことを学び、子どもに試すのはもちろん大切ですが、周りから見て「良い親」でいようとか、「できる親」を作り上げなければ、とまで思わなくていいんです。今のままでいいんだと、まずは思ってください。その上で自分や子どもの短所ではなく長所に目を向け、大切に伸ばしていく。そんな教育を意識していれば、勉強にもきっと回ってくるはずです。【聞き手・千脇康平】
(2020年5月11日付毎日新聞より)
人物略歴
石田勝紀(いしだ・かつのり)さん。
1968年横浜市生まれ。一般社団法人「教育デザインラボ」代表理事。楽手塾や私立学校を経営した経歴を持つ。主な著書に「子どもの自己肯定感高める10の言魔法のことば」「はじめての子ども手帳」。近著では「同じ勉強をしていて、なぜ差がつくのか?」