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主体的に勉強できる方向付けを 元ラグビー日本代表メンタルコーチ・荒木香織さん【やる気レシピ】

ラグビー日本代表がスポーツ史に残る大金星を南アフリカから挙げた2015年ワールドカップ(W杯)イングランド大会。あの活躍を裏で支えたのがメンタルコーチだった荒木香織さんだ。「やる気」の引き出し方など受験勉強でも応用できるヒントを聞きました。

――勉強の「やる気」はどうすれば引き出せますか。
◆モチベーション理論では「主体性」「有能感」「関連性」の3要素が動機付けにつながるといわれています。主体性とは自分で選択すること。子どもの主体性を育むには大人が複数の選択肢を与えて子どもが選ぶことができるようにしてあげればいいと思います。勉強が手につかない子には、勉強する時間をご飯の後にするのか、朝なのか、帰ってすぐなのか選択肢を与えてみたり、教材を一緒に買いに行って選ばせてあげたりすることなどが考えられるかと思います。

――15年のラグビーW杯イングランド大会の日本対南ア戦での大逆転劇は「主体性」が生んだそうですね。
◆試合終了直前、3点差で負けていた日本はペナルティーを得ました。エディー・ジョーンズ・ヘッドコーチ(当時)の指示は「ペナルティーキックで同点を狙え」でした。でも、選手たちはその指示に従わずトライを狙いにいこうと決めて、見事にトライを奪い逆転勝ちしたのです。この主体性こそ、エディーさんと私がずっと選手たちに求め続けてきたことで、大舞台でそれを発揮してくれたのです。

――有能感とは何ですか?
◆何かができる感覚です。有能感を味わえると自分でもっと伸ばしたいという意欲が芽生えます。何度やってもできなければやり続けようとは思わない。だからその子ができることより少し難しい選択肢を与えるのがポイントです。少し挑戦が必要なハードルの高さを設定して、それを連続してクリアしていく、そうしていく方が伸びるスピードは速いと思います。

――関連性とは。
◆勉強でいうなら、勉強することがどれだけ生活を含め他の場面(スポーツ、音楽、友達関係、習い事)で役に立つかということです。大人がこれを説明してあげる必要があります。ラグビー日本代表だった五郎丸歩選手がキックの前にする「プレ・パフォーマンス・ルーティン」の完成に向けて3年半近く取り組むことができたのは、自分のためだけではなくて、キックの成功率を上げることがチーム全体の成長と関連することを理解していたからです。スポーツ心理学の研究ではルーティンを持っている選手の方が持っていない選手より成功体験が多いということが明らかになっています。

――勉強に応用できますか?
◆勉強する前に必ず姿勢を正すとか、お茶を飲むとか、深呼吸をするとか、何でもいいと思います。それを勉強の準備とすることが大切で、テスト当日も同じことをすればいい状態でテストに取り組むことができるようになると思います。

――ラグビー日本代表のコーチ時代は「ほめる」ことを重視していたそうですね。
◆ほめられたことが記憶されると自分のいいところを確認できます。ほめられてもうれしいと思わない人もいますが、そういう場合でも「これはできたね」という確認作業は大切です。「次はこんなこともできるんじゃないか」という主体性も生みます。

――受験での目標の立て方で大切なことはありますか。
◆「〇〇大学に合格」「〇〇高校に合格」という目標があるなら、そのために何をすべきかを目標に立てることが大切です。例えば、「〇日までに〇〇の復習を終えておく」など。「風邪を引かない」ではなく、風邪を引かないためにすべきことを挙げてみる。「〇位以内に入る」ためにすべきことを目標に示す。こうした「過程」を自分でいろいろ工夫することで「考える力」が養われます。

――メンタル面で受験の本番に向けて準備はありますか。
◆問題を解ける準備に加え、必要なのは本番に力を発揮できるようにする準備です。シミュレーションが大切です。試験問題と同じ時間で解いてみる、その時間には部屋にだれも入って来ないようにする、とか。今年度は新型コロナウイルスの感染状況次第では試験の日程や形態に影響が出るかもしれません。いろんなことを想定しておいた方がいいでしょう。【聞き手・三木陽介】
(2020年10月26日掲載毎日新聞より)

人物略歴
荒木香織(あらき・かおり)さん
順天堂大スポーツ健康科学部客員教授、CORAZON チーフコンサルタント。米国でスポーツ科学を学び修士課程、博士課程を修了。アスリート、指導者らを対象にメンタルパフォーマンストレーニングを提供。著書に「リーダーシップを鍛えるラグビー日本代表『躍進』の原動力」(講談社)など。