スクールエコノミストは、私立中高一貫校の【最先進教育】の紹介を目的とした「12歳の学習デザインガイド」。今回は武蔵中学校を紹介します。
武蔵は大学のような無限の学びの場 学校を飛び出し「外へ、もっと先へ」
<3つのポイント>
① 旧制高校時代から続くアカデミズムで、物事の真理と本質を究める
② 日本の農村から海外大学まで、多様な視点をはぐくむグローバル教育
③ 「幅広い視野」と「人の痛み」がわかるリーダーを育成
とことん背伸びした武蔵時代 ボランティアを機に教員を志す
杉山剛士校長が武蔵高等学校中学校に入学した1970年は、ベートーヴェン生誕200周年の年だった。「音楽の授業では1年かけてベートーヴェンの生涯を学び、スコアを追いかけながら交響曲をはじめありとあらゆる楽曲を聴きました。専門的な講義の連続で、いきなり大学に飛び込んだ気分でした」。どの授業でも教員から投げかけられる問いは深く、友人同士で原典を探る日々。「背伸びをさせてくれる学校でした。自ら求めさえすれば無限の学びがそこにある。自調自考の精神は、当時も今も変わらず息づいています」。
卒業後は東京大学へ進学しボランティア活動に没頭。経済的に貧しい子どもたちに勉強を教えた。目の前にいる子どもが成長し、未来を切り開いていく姿を見て、教員になろうと決意する。大学では教育社会学を専攻し、大学院にて修士号を取得。その後埼玉県の公立高校において教員や教育委員、校長職などを歴任した。
「公立校はまさに多様な世界。さまざまな背景をもつ子どもたちと共に、いかに複雑な問題を解決していくか。もっとも重要なことは生徒一人ひとりとしっかり向き合うことです。目の前にいる子どもは“生徒という格好をした未来”。一人ひとり違う成長プロセスに、いかに働きかけるかが教員の腕の見せ所です」。35年の職務の後、3年前に武蔵の校長に就任しさまざまな変革を起こしている。
農村は世界へ飛び出す第一歩 視野を広げる体験の数々
今年創立100周年を迎えた同校。「新生武蔵」という言葉には、武蔵のよさをいかしながら“時代に応じて進化する”という決意が込められている。中でもグローバル教育はその中核を担う重要な柱だ。
武蔵のグローバル教育は、中2の群馬県みなかみ町の民泊実習に始まる。農家に滞在し、農作業や家業を体験する3泊4日のプログラム。東京にいては実感できない過疎化や高齢化の問題も、そこに身を置くことで気づくことができる。
第二外国語(ドイツ語・フランス語・中国語・韓国朝鮮語)も必修となっている。高2になると選抜された十数名が「国外研修制度」によって当該言語の国へ派遣される。その他にも「チャレンジ奨励制度」を創設して、主体的に世界へ飛び出す生徒を資金面でも支援している。「今いる自分の現在地はほんの小さな世界に過ぎない。家庭を、学校を飛び出して、どんどん視野を広げてほしい」と杉山校長は語る。
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