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【ニュースがわかる2024年5月号】巻頭特集は10代のための地政学入門

スクールエコノミストWEB【足立学園中学校編】

スクールエコノミストは、私立中高一貫校の【最先進教育】の紹介を目的とした「12歳の学習デザインガイド」。今回は足立学園中学校を紹介します。

社会課題をテーマにした「探究学習」で生徒たちの能力が驚異的に進化する

<3つのポイント>

① 強い志を持った子どもの可能性を確認する「志入試」を導入

② 2年間の「探究学習」で、潜在的な能力をとことん伸ばす

③ Microsoft社のICTインフラで、社会でも役立つスキルを磨く

子どもにも自分を見つめてほしい 「志入試」に込めた思いとは

 第一志望者を対象とした足立学園の「志入試」はとてもユニーク。国語、算数の基礎学力テストのほか、将来の目標などを100字程度でまとめたエントリーシートの提出、親子面接が行われる。入試の意図について井上実校長は、「社会に貢献できる人物になるには、世のため人のためにという思いに裏づけられた夢、すなわち志が必要です。入試では、自分は何をしたいのか、得意なものは何なのか、何を持って社会に貢献できるのかという志を確認します」と語る。では具体的に志とは何なのか。それは「自己分析から始まる」と井上校長。「12歳までの経験で得意なもの、苦手なものを親子で話し合えば、心の奥底にあるものが出てくる。これが志の芽となり、将来の大きな目標につながっていく。自ら学ぼうとする子どもの成長は凄まじく、大人が考える以上のポテンシャルを秘めている。本校では人を育てるのではなく、自ら育つ人を創りたい」。志入試には、こうした学校側のメッセージが込められているのだ。

自分の志を発表し他者と共有する

生徒の能力が飛躍的に向上 探究学習で相互協力が実現

 入学した生徒たちは、日々の授業で人間力の土台となる基礎学力を身につけ、さらに高1からの「探究学習」で高みを目指す。4年前に高校に設置された「探究コース」はゼミに分かれるところからスタート。自分の「知りたい」ことを知り、テーマを決めて最終的に1万字の論文にまとめていく。「探究のテーマは自由です。しかし、自分が何を知りたいのか、何にワクワクするのか、世の中でどう役立てたいのか、自分の考えや思いをどう実現できるのかを軸に、とことん掘り下げて考えるよう指導しています」と授業研究係主任の飯山泰介教諭は語る。探究のテーマはさまざまだ。例えば、Oさんが選んだのは「ミドリムシの有効利用」。未来の食料や燃料としても注目されているミドリムシ(ユーグレナ)に着目し、学校の実験室で培養を開始。pHの変化、CO2濃度、飼育環境などの違いでミドリムシの個体数がどう変わるかを検証した。論文では、宇宙環境、特に火星で人間がコロニーを形成する場合、ミドリムシを食料として利用することを提唱。火星での育成を実現するにはさらなる追加実験が必要だと締めくくっている。

 生徒同士の研究がつながったエピソードもある。Kさんの研究テーマは「ヘドロの分解」。河川の清掃活動をする団体に入っているKさんは、川の水質汚濁や汚臭の原因となるヘドロを除去できないかと考えた。そこでEM菌(有用な微生物)を用いれば分解されるという記事に着目。ヘドロとEM菌を使用して、実際に分解できるかどうかを実験で検証することにした。実験材料として使うヘドロの調達をする際、思い出したのが、ミドリムシの研究をしていたOさんの実験。早速相談したところ、ミドリムシの死骸(ヘドロ)を提供してもらえることになり研究が進展した。以降も情報交換をしながら研究に励んだという。

教員も一丸となって応援、英語コンテストで金賞受賞

 高1でのアメリカ留学がきっかけでプログラミングに興味を持ったYさんが探究のテーマに選んだのは、「自動運転の開発」。研究の大きな目的は、「完璧に安全な自動運転車を作る」ことだ。そこで自動運転できるラジコンカーを自作することに挑戦。先行研究や英語文献を参考にプログラムを組み、ラジコンカーを作成。道路を模倣したレーンを作って周回させ、集めたデータをディープラーニングの技術で学習させることによって自動運転のラジコンカーを作ることに成功した。

 さらに得意の英語力をいかし、この取り組みを第3回 Change Maker Awards(中高生のための英語プレゼンテーションコンテスト)で発表。自動運転技術の探究内容と、7分間の英語のスピーチ力が評価され、個人部門金賞を受賞。将来は日米のトップ大学で、ストレスフリーな車の開発を目指したいという。Yさんの受賞には、研究を手助けした担任教員、英語のスピーチをサポートした教員、演技表現力の指導をした教員の力も貢献。まさに同校の理念である“生徒第一主義”が花開いた結果だと言えよう。受賞後の感想でYさんは、「英語の原稿を覚えて話すだけでなく、相手に気持ちが伝わるよう表情を工夫したり、ストーリー性をもたせることにも力を入れた。また、探究学習で資金が必要だった時、校長室でプレゼンをしたことも今回のスピーチをするうえで大いに役立った」と話す。同校の探究学習では、Yさんのように必要な実験器具を揃えるため、校長にプレゼンをして許可をもらうケースも多い。これが生徒の自発的、積極的な行動を促す起爆剤にもなっている。今後は、2年間の探究学習を自らの進路と結びつけ、大学受験の総合型選抜や公募制推薦の武器として活用されるケースが増えていくことも予想される。「生徒が全力でやりたいことがあり、支援を求めるなら学校も全力で応えるのが本校の教育。志を持って成し遂げたいという彼らの挑戦を応援し、できる限りのことをする」と井上校長。主体性を持って学ぶ生徒の挑戦を教員全員が一丸となって支え、真の人間力が鍛えられていく。

 論文を書き終えた生徒からは、「好きなことに打ち込むことの重要性に気づいた」「生きていく中で大切な思考法を知ることができた」など前向きな感想が寄せられている。「探究学習は、生徒たちが社会をよりよく生きていくための大きな原動力になっている。これこそが本校が目指す全人教育であり、自ら育つ究極の学習法の一つではないか。4年前は願望だったものが、今では確信に近づいている」と飯山教諭。これがまさに同校が目指す「志共育」の原点なのかもしれない。