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スクールエコノミストWEB【巣鴨中学校編】

スクールエコノミストは、私立中高一貫校の【最先進教育】の紹介を目的とした「12歳の学習デザインガイド」。今回は巣鴨中学校を紹介します。

世界最高峰のオックスブリッジ進学への道を拓く 算数1科目入試と独自の国際教育の学習体験

<3つのポイント>

① 論理的思考力、総合力に秀でた生徒を見いだす「算数選抜入試」

② 高次の思考へ導く新国際教育プログラム「Double Helix(ダブル・ヒーリックス)」

③ オックスブリッジなど英国超一流大学への独自の進学ルート

文章読解力など総合学力をはかる「算数1科目入試」問題

 巣鴨中学校では全ての学びの土台となる論理的思考力に優れた生徒の積極的な受け入れを掲げ算数1科目入試を導入している。昨年度の実質倍率は2.6倍だが、合格最低点は71点、合格者平均点は81.7点とハイレベルな入試となった。入試問題は、前半に基礎力を問う問題、後半に難度の高い長文問題、記述式問題とバランスのとれた配分だ。長文問題、記述式問題には解法を暗記しているだけでは正解を導き出せない文章読解力や表現力をはかる意図がある。数学科の爲貝基文教諭は「数学には論理の構築が重要。原因と結果を論理的に説明できるかどうかを問うことで数学以外の能力も見ることができる」と語る。この言葉通り算数選抜入試組は、入学後も優秀で総合成績トップ集団に数多く位置しているという。

 また、同校には第1志望校の受験に失敗した生徒もいるが、「後ろ向きのスタートを切った彼らの挫折感を払拭させることが中1・1学期の最重要課題」と爲貝教諭は力を込める。まずは日々、楽しく学べる授業、環境にすることを大切にする。そのうえで課外活動や伝統行事の中に各自の目標を定め小さな成功体験を一つずつ積み重ねていくことで、「挫折感に苛まれていた生徒の表情が明らかに変わる瞬間がある」と爲貝教諭。元々優秀な生徒たちだ。挫折感を払拭すれば自信を取り戻し、その後は本来の実力を存分に発揮し、成績優秀者となる生徒も多い。だからこそ教員陣は中1のできるだけ早い段階で挫折感を払拭させることに使命感を持って生徒に向き合い続けているのだ。

選抜生の刺激で変わる教室と生徒 数学を通じて努力する力をはぐくむ

 中1~2のクラス編成は、算数選抜入試組を集めた数学特別クラスなどは設けず、あえてフラットな編成にこだわる。1クラスに算数選抜入試組の生徒が6~7名入ることで互いに刺激し合い、クラス全体で向上していく狙いもある。実際に、ハイレベルな問題を求めて、外部の数学コンクールなどに個人で挑戦する生徒もいる。一方、数学は一度つまずくと習熟度に大きな差が出るため、学習の遅れた生徒たちには丁寧な個別指導も行う。「彼らが問題を理解した時に見せる輝く笑顔は『できるようになりたい』という思いが溢れている」と数学科の今坂直哉教諭は笑みをこぼす。また、習熟度が低い生徒へ時間を割く教員の姿を目の当たりにする生徒たちは、自分たちは決して見捨てられない、という安心感にもつながっているという。

 中3になると数学を中心とした成績優秀者を集めた「数学クラス」を学期ごとに編成し、学年全体で刺激し合う効果を狙う。しかし、最初の授業で必ず、数学クラスの生徒には優越感を持つことを諫め、一般クラスの生徒には劣等感を持つ必要は一切ないと助言する。「社会ではさまざまな能力が評価される。一つの分野に秀でることは素晴らしいが、それのみで自己・他者評価する思考を持ってほしくない」と爲貝教諭。優越感、劣等感を持たせない指導は両クラス全体の底上げとなり、習熟度の高い生徒も満足する授業への進化が可能となるという。

 また、面倒見のよいことを標榜する学校も多いが、同校では他力本願になりかねないとの危惧から教員は生徒の自主性を促し、常に見守るメンターとしての役割に徹する。そして、この自主性の基盤に不可欠なのが基礎基本だ。数多くの難関大学合格者を輩出する同校だが、日々の授業では基礎基本を重視し、習熟度に拘わらず全ての生徒が理解できる教材研究にも余念がない。森山敦史教諭は「基礎の積み重ねは、努力する力の育成にもつながる。努力する力をつけた生徒のその後の成長は目を見張る」と力強く語る。

オンラインで実現した新プログラム「Double Helix(ダブル・ヒーリックス)」

 例年、世界の第一線で活躍しているイギリスのトップエリートを講師に招いて「巣鴨サマースクール」を開催してきた同校。昨年度はコロナ禍の影響で中止となったが、新たな国際教育プログラム「Double Helix」をオンラインで開催。他校からも参加を募り計50名の優秀な生徒が4週間にわたり巣鴨完全オリジナルの国際教育の学習を体験した。Double Helixとは二重螺旋を意味し、一つ目の螺旋は〈知識〉、二つ目は問題解決能力や批判的思考などの〈高次の思考〉だ。高次の思考と、知識の量・質が二重螺旋のように絡み合いながら向上していく。「プログラムは生徒たちの高次の思考を刺激し、深い学びへと誘うように編成した」と語るのはプログラムの仕掛け人でもある英語科の岡田英雅教諭。同校は英国イートン校サマースクールに都内の男子校で唯一参加が認められているが、岡田教諭はそこで培った人脈を駆使して、講師陣の人選からプログラム全体のテーマ選定、構築までを担った。今回の全体テーマは「試練の中の学び」。そこから講師陣の専門分野を踏まえ「試練のときに描かれた絵画の分析」「試練のときに使用された言語の分析」「伝染病とワクチン開発の歴史」「伝染病の免疫システム」「パンデミックと世界の医療の現実」の5つのコースが設けられた。生徒は全コースに参加し、理解・分析に必要な専門用語をはじめとする基礎知識の理解を促す宿題を毎週5コース分オンライン上でこなす。その後、ペアワーク分析、ディスカッション、プレゼンテーションとさまざまなオンライン上の機会を通じて、理解を深めていく。質・量ともにハードだが、岡田教諭は「なぜ知識を得ることが重要なのかを理解させたい。大量の知識なしに高次の思考は実現しない。人気のアクティブラーニングも知識があってこそより深い学習へと発展する」。つまり同校の国際教育の核は国際的レベルで対応可能な知識の習得、分析・思考力を育むことにある。語学力はあくまで道具だ。語学力は卒業後にいくらでも向上できるので、中高時代は母語での知識収集と思考力育成を優先したいと、岡田教諭。事実、オールイングリッシュの同プログラムで優秀者に選ばれたのは、帰国子女や留学経験者ではない生徒たちだ。

巣鴨主催、私立の男子校、女子校、共学校が8校合同で開催したDouble HelixのClosing Session

 そのほか同校が日本で唯一加盟する、英イートン校やハロー校などを中心に世界の中等教育をリードする学校のネットワークWLSA(World Leading Schools Association)と密に連携しながら、同プログラムが構築されている点も注目したい。来年度は、医学の道を志す生徒のためのプログラムを計画中だ。岡田教諭は「生徒たちは何かのために学ぶのではなく、学ぶこと自体が楽しいことを知る。これこそが学びの始まり。また、好きなことを学べばいい、だけでは自分の経験値の中からしか選べない。中高時代には好き嫌いをさせずに幅広く学ばせたうえで、卒業後の道を選択させたい」と同プログラムの意義とともに生徒への思いを語ってくれた。