注目キーワード
  1. 中学受験
  2. 社会
  3. イベント
  4. SDGs
【ニュースがわかる2024年5月号】巻頭特集は10代のための地政学入門

スクールエコノミストWEB【桐朋中学校編】

スクールエコノミストは、私立中高一貫校の【最先進教育】の紹介を目的とした「12歳の学習デザインガイド」。今回は桐朋中学校を紹介します。

電子研・数学研究同好会・音楽部 自由と多様性尊重の校風が創る才能教育

<3つのポイント>

① 廃材を利用し、教科書では学べない工学を体感する電子研

② 自らの興味関心に耳を傾け難問に挑戦する数学研究同好会

③ 多様な価値観を認め合い、一人ひとりの音楽を追究する音楽部

有志研究会ゆえの型破りが独創性を育む電子研

 「自主・敬愛・勤労」を教育目標に掲げ、「自由」と「多様性」が校風に満ち溢れた桐朋中学校・高等学校は〈好奇心こそ学びのエンジン〉として知の探究のための環境作りに注力している。自由参加の部活動もそのひとつで、中学生はほぼ100%が何らかのクラブに所属しているという。多種多様な団体が存在するが、ここでは3つの活動を紹介していく。

 電子研は電子工作好きが集まるモノづくり集団だ。誰もまだ見たことのないもの、改造前とは似ても似つかないものを作ることをモットーとする。研究会発足の発端は千馬隆志教諭が担任するクラスで行ったラジカセの解体だった。それを見た電子工作好きの同期生が自然と集まり有志研究会に発展した。現在は学校未公認の有志の集まりで、活動も主に昼休みということもあり、生徒は気軽に自由に参加している。一見マイナスともいえるこの環境が逆にプラスの効果を生む。機械の分解も目的の一つであるため、材料は主に廃材を解体し、部品や機構を再利用する。「解体で内部機構を直に見る経験は、工学を体感するよい機会。工学の応用物に触れ苦労や失敗を重ね製作する生徒には教科書の知識だけでない『野生育ち』の強さがある」と千馬教諭。さらに廃材の再利用という点では持続可能社会への貢献、気づきの機会にもなる。何より特許技術が網羅された機械の内部機構は、無駄を削られ、工夫が凝らされた先人の芸術品であり、それを鑑賞することは最良の学び、と千馬教諭は語る。

電子研の企画会議の様子

 知識を備えたうえで製作に臨む際に最も重要なのはアイデアであり、自分のアイデアを盛り込むことが創造力やチャレンジ精神を培う。さらに、モノ作りは企画力、組織作りなどの能力もはぐくんでくれる。同研究会は、これまでにも豊かな発想でさまざまな作品を完成させてきた。例えば、プリンターやラジカセを改造した射的マシーン、桐朋祭で廊下を宣伝して走る自律式ロボットやカードを使って自動開閉する入場ゲード、そのほかコロナ禍ならではの作品としてアルコール消毒液のディスペンサーなどもある。また、桐朋祭で入場者に楽しんでもらう玩具作りを行い、桐朋祭校長特別賞(2021)を受けたほか、外部の発表や大会にも挑戦。一例を挙げると、ソレノイドコンテスト (2020年)、 Maker Faire Tokyo 2021オンラインプレゼンテーション、モノコトイノベーション(2021年)では大賞を受賞。今年度は東京ビッグサイトで開催されるMaker Faire Tokyo 2022に参加予定だ。コロナ禍においては、外部発表会やコンテストで知り合った他校のサークルともオンラインで交流会を開くなど新たな活動形態も見いだし、さらなる展開も模索している。

 現在、電子研には15~16人が参加している。「二足歩行ロボット格闘技大会のロボコンに出場したい」という竹内さんは建築系学科への進学を希望している。電子研でポスターやプレゼンテーションの映像製作に関わった吹春さんは「製品デザインを学びたい」と将来の希望を語った。

一人の生徒の呼びかけで誕生した、数学好きが集う数学研究同好会

 2年前に創設された数学研究同好会。同校の化学部や地学部は有名だが、理系分野で数学のクラブがないことに疑問を持った当時高1だった現部長・渡邊さんが奮起し周囲の数学好きに声をかけ誕生した。現在は、中1から高3までの約20名の生徒が在籍する。「通常授業のようなカリキュラムに沿った学びではなく、自らの興味関心に耳を傾け、自由に数学の世界を旅してほしい」と語る顧問の飯田昌樹教諭は大学の数学科出身ということもあり、生徒に学んでみてほしいテーマや分野はあるが、「それでは自主的な学びではなくなる」とあえてその思いは封印し見守ることに徹しているという。

 現在は、数学オリンピックの過去問や部員が作った問題、YouTubeにアップされた問題をみんなでアイデア、意見を出し合いながら解くのが主な活動だ。また、桐朋祭にも参加し、来場者へ配布する問題は数か月を費やし作成するという。

 飯田教諭は「部員同士が互いに知識や知恵を出し合うことで、さまざまな解法のアイデアがつながる。それがより深い数学力をはぐくんでくれる」と共同学習の意義を語る。七澤さんも「一人では思いつかない他部員の発想が大きな刺激になる」と教えてくれた。また、これまで高校生の先輩が中1の後輩へ問題を提供する際は、中1の学習範囲内での作問という配慮があったが、「様子を見ながら、より高度な問題へと移行していく」と七澤さん。門馬さんは「今後は数学オリンピックへの挑戦や他校との交流なども行いたい」と展望を語る。卒業後の進路については、「プログラミングの手順が数学に似ている」と気づいた門馬さんは情報系の大学を目指し、将来はプログラマーを希望する。また、七澤さんは大学でも数学系学科へ進学し、「高度な数学を学びたい」と夢を語ってくれた。