教員とも塾講師とも異なる“次世代の教育者”として注目されている人がいます。「教育ユーチューバー」、葉一(はいち)。動画サイト「ユーチューブ」で配信する授業動画がわかりやすいとして中高生を中心に口コミで広がり、開始から7年で動画の累計再生回数は2億回を突破しました。
――授業動画ではどんな点を工夫していますか。
◆動画は基本的に15分以内でまとめています。コンパクトに集中して見られる長さを意識しています。今やっている内容がわからなければ、前の単元や前の学年の動画に目を通して、どこがわからないかを自分で探れるようにしています。自分が想定しているのは基礎を定着させたい子。それは、集中や継続が苦手だった中高生時代の自分だったり、というイメージです。授業で「わかる」という成功体験を得ることが、「やる気」の第一歩だと思います。
――なぜそれが「やる気」につながるのですか。
◆子どもの生活の中で大部分を占める時間は学校の授業です。それなのに「わからない」と思いながら過ごすのは苦痛です。成功体験というと、志望校合格のように大きなことに思われがちですが、「前はわからなかった問題が解けた」のも「授業中に手を挙げられた」のも成功体験だと思います。「勉強をがんばって良かった」という小さな成功体験を積み重ねることが重要です。
――受験期になっても勉強しない子どもにやる気を出させるには。
◆受験はその先の人生までイメージすることが必須です。子どもたちには、志望校に進学して、どんな制服を着て、何月にどんな行事があって、ということを想像してほしい。親御さんの言葉は子どもにプラスにもマイナスにも働くと思っています。やる気がみられなくなったり、できていない点が目に入ったりすると、口うるさく言いたくなるかもしれません。ですが、まず「今、子どもにかけようと思っている言葉は、いま必要なのか」を一瞬考えていただきたい。そして、ほめるときは「ほめ」を伝えきってほしいですね。
――伝えきるとは。
◆例えば、子どもがテストのある教科でいい点を取ったらほめますよね。でも子ども自身が「他の教科は悪かった」と話し始めると、どうしても悪い方に目がいって、ほめられるところをほめきれずに終わってしまいます。他が悪くても、成果は成果ですから、そこはほめきってほしい。先生方には子どもの道を決めつけないでほしい、と思っています。ランクの高い志望校を口にした子に対して、簡単に「無理」という言葉を使って切り捨てる方の話を聞くと、それは違うよなと感じます。
[関連記事] 宿題をやり始めるまで時間がかかる子にはどうしたらいいの?
――自身の受験は失敗の連続だったそうですね。
◆高校受験も大学受験も前期は不合格でした。高校受験で選んだのは県立の男子校。中学生の時、太っていたことを理由にいじめられたのですが、特につらかったのが女子生徒からの陰口でした。男子校は複数ありましたが、ランクを下げて受けたので「受かるだろう」と思っていました。倍率も高くなかったです。でも前期は不合格。後期まで時間もなかったので、新しいことを覚えるより記憶が抜けないようにすることに気を配って、合格できました。
――大学受験はどうでしたか。
◆数学の先生を目指そうと東京学芸大を第1志望に猛勉強しました。高校で尊敬できる数学の男性の先生と出会ったのがきっかけです。板書が丁寧で、わかりやすい授業が好きでした。その先生に憧れ、高校3年の1学期にようやく大学進学を決めました。センター試験では高得点を取れたのですが、前期の2次試験までの間に体調を崩し、何も手につかず不合格。私立も3校落ちてしまいました。それで考え方を変えました。「受かる、受からない、ではなく力を出し切ることに集中しよう」と。東京学芸大の後期試験は、ただ目の前にある問題を解くことに集中しました。「これで落ちたら仕方ない」と気持ちを切り替えたことが奏功して合格できました。【聞き手・成田有佳】
■人物略歴
葉一(はいち)さん
1985年福岡県生まれ。群馬県高崎市在住。2012年にユーチューブチャンネル「とある男が授業をしてみた」で授業動画の配信を始めた。著書に「一生の武器になる勉強法」(KADOKAWA)。「葉一」は活動名。(2019年12月23日付毎日新聞より)