楽しく駆け引きを 「Wii」の企画・開発担当 玉樹真一郎さん【やる気レシピ】

 

楽しく子どもと駆け引き 任天堂「Wii」の企画・開発担当 玉樹真一郎さん

 ゲームには夢中になるのに、なんで勉強は――。そんな思いを抱いている親御さんも多いのではないでしょうか。それなら、逆にゲームの秘密は何なのか当事者に聞いてみよう。というわけで、今回は世界的に大ヒットした任天堂の家庭ゲーム機「Wii」の企画・開発を手がけた玉樹真一郎さんに「やる気」のコツを教えてもらいます。                       

――上司が頭を抱えています。「息子が勉強してくれないんだよなあ。ゲームは何時間でも集中してやるのに……」と。

◆個々で多少の差はあると思いますが、集中力は本人の力だけで発揮されるとは思いません。本人と「集中する対象」とがセットでどれほど集中できるか決まる。集中できるゲームも5分で飽きるゲームもあります。決して本人の素質だけの問題ではない。ゲームは、集中させる力、ついやってしまう力がそのまま商品力につながります。

――新著のタイトルにもある「ついやってしまう体験」。教育で生み出せればいいのですが。

◆教育というコンテンツは残念ながらそこが足りていない。みんな悩んでいるんですね。本が出て、教育関係の方々がすごく反応してくれたんですよ。

――私も「教育で使える」と思いました。どんな反応でしたか?

◆「今の教育は子どもが自発的に楽しく学ぶように設計できていないのではないか」「問題を生徒と話し合ったり、部活で指導したりする時に使える」などです。なぜポケモンのキャラクターを151も覚えられるか。全て覚えたくなるような体験をデザインしているからです。漢字を151個覚えさせるのにそんな体験を活用してみるのも手ですね。ところで、ゲーム業界で言われる「最高のゲームの難易度」ってわかりますか?

――うーん、難問ですね。

◆正解は、遊んだ人全員が「自分だからクリアできたけど下手な人はちょっとできなかっただろう」と思える難易度です。大切なのは、誰にでも絶対に解けること。解けなきゃ面白くない。勉強も同じで、「解けるけど、なかなか骨が折れた」と思えるくらいがちょうどいい。難しすぎる問題ばかり出していませんか。

――直感、驚き、物語の三つのデザインが心を動かすと説かれています。子どもを前向きにさせるには?

◆直感のデザインとは、何らかの仮説を抱かせ、当てさせ、喜びにつなげること。「これは勉強しろってことなんだろう」。僕は娘の部屋にホワイトボードを置き、まずは「勉強しよう」と誘いました。楽しんでくれたのは最初だけ。ならばと、寝てから宿題を書くようにしました。

――どんな問題を出すのですか?

◆例えば、当初は顔を描いて「はなみずをたらせ」、カレーなどの食べ物を描いて「たべたいものに〇をつけよ」、幾何学模様を描いて「ぬりつぶせ」。慣れさせてから「5+9=?」とか、絵を描いて「かかれたものをひらがなでかけ」「昆虫をどれ?」なんて問題を出しました。朝起きてボードに問題が書いてあると、娘は「これは解いてってことだな。やったら喜ぶな」と思う。毎回大変ですが、慣れてくると逆に子どもから絵を描いて問題を出してくるようになって「報われたなあ」と。ドリルを1枚切り取り、黙って机に置いておくこともあります。

――忍耐が要りますね。

◆「勉強しなさい!」という言葉には「今すぐ」が前に付いている。子どもにも自分なりの考えや習慣があり、親にボキッと気持ちを折られるのはストレスです。予感を持たせるには時間が要りますが、何とか許容してみてはどうでしょう。僕は子どもが飽きないよう、時々うんこや鼻毛を生やした自画像を描くこともあります。

――それって驚きのデザインですか?

◆そうです。予想が外れる驚きで疲れや飽きを拭い去る。ドリルを9割まで終えたとき、わざと「勉強するな」と言うのも「やだ!」って反応がきて効果がありました。近くの畑で捕まえた虫を机に置くいたずらもやります。脳は疲れや飽きが発生するようにできている。気楽に飽きから抜け出せるように仕向けられるのは親なんじゃないか。

――子どもとの駆け引きを楽しんでいますよね。

◆同じ苦労の繰り返しより、いろいろ試す苦労なら苦行感から抜けられる。すべったり、全然伝わらなかったりもしますが、かまっているというサインは伝わるはずです。子どもって、親から無視されるのが一番きついですから。【聞き手・千脇康平】

■人物略歴

玉樹真一郎(たまき・しんいちろう)さん。1977年、青森県八戸市生まれ。任天堂入社後、世界で1億台を売り上げたゲーム機「Wii」の企画・開発を担当。2010年に退社し、14年から八戸学院大特任教授(企画)。2児の父。「『ついやってしまう』体験のつくりかた」(ダイヤモンド社)が刊行された。(2019年11月25日毎日新聞朝刊より)