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【ニュースがわかる2024年5月号】巻頭特集は10代のための地政学入門

格差社会を生き抜くために必要な力とは―【井手英策さん ふつうに生きるって何?#1】

 子どもたちには 幸せになるチャンネルに気づく力を

 格差社会で人は幸せになれるのか。気鋭の財政社会学者、慶応大教授の井手英策さんは「格差はキミのせいではない。幸せになるチャンネルは身近に幾つもあって、それに気づく力をもっているかどうかだ」という。そんな思いを小学生にも伝えたいと、「ふつうに生きるって何? 小学生の僕が考えたみんなの幸せ」(毎日新聞出版)を今年2月に出版した。格差社会を生き抜くために必要な力とは――。井手さんに聞いた。

 家族といると楽しくてしょうがなかったコロナ禍の生活

 ――コロナ禍の生活はどうでしたか。

【井手】 4人の子どもたち(小学6年、3年、未就学児2人)がずっとうちにいるじゃないですか。楽しくてしょうがなかったんです。仕事をしていて、ちょっと疲れたら、子どもたちの顔を見にいってたくさん話しました。家族といるとこんなに楽しいんだと、骨身に染みた。6人家族で生活は厳しいですが、これからは仕事を減らそうと、本気で思っています。

井手英策さん

 貧しい者たちが気づく小さな差

――この物語では、主人公の愉太郎が、障害のある/なし、塾に行ける/行けない、夏休みの思い出をつくれる/つくれないなど、さまざまな「格差」に気づいて、その都度悩み、もがき、考えます。ご自身も子どものころ、「格差」を感じられたことがあったのでしょうか。

【井手】 当時、小学校のクラス名簿は両親の名前も書くようになっていましたが、うちは母子家庭だったので、ものすごくいやだったんです。父親がいないことは分かっていましたが、それが目に見えた。僕はどうしたか。あわてて父親がいない子を探したんです。そうしたら、1人いたんです。僕が小学4年生のとき、母がスナックを始めたのですが、彼の母親もスナックのママだった。強烈なライバル心を抱き、いつも口論し、「おれはあいつとは違う」ということにものすごいエネルギーを割いていました。格差といえば、勝ち組と負け組、お金持ちと貧しい人と分けます。ところが、貧しい僕にとってお金持ちは住む世界が違うからどうでもよく、貧しい人の中の小さな差が目についた。

 子どもの心を傷つけるのは、大きな差ではなく、ものすごく小さな差なんです。近くにいる、似たような境遇のやつには絶対に負けたくない、という気持ちが僕を突き動かしていたような気がします。【#2に続く】