災害時に自宅や避難所ではなく、車の中で寝起きする「車中泊避難」が、近年注目されています。プライバシーが保たれるなどのメリットがありますが、健康被害の恐れもあるため、正しい知識を身に付けておくのが大切です。自動車メーカー・トヨタ自動車(愛知県)の社会貢献部の高木陽一さんに教えてもらいました。
2016年4月に2度の最大震度7を記録し、甚大な被害が出た熊本地震では、多くの被災者が車中泊避難を選びました。
被災当時、熊本地震の被災地で車中泊をする避難者50人に毎日新聞が、どうしてなのかアンケートをしました。その結果、理由には、▽余震(大きな地震の後に続いて起きる地震)への恐怖から屋内が怖い、▽プライバシーのない避難所のストレス、▽乳幼児やペットがいるために避難所の利用を避けた――などがありました。
一方で、狭い車の中に長く同じ姿勢でいたため、血の巡りが悪くなって血液中に血の塊ができて血管が詰まる病気「エコノミークラス症候群」になって亡くなる人もいました。

熊本地震で設けられた避難所の駐車場で車中泊する人たち=熊本県益城町で2016年4月20日
トヨタ自動車が啓発活動のためにまとめた車中泊避難のリスクやポイントを教えてもらいました。
まず、車内で足を伸ばせる環境をつくりましょう。エコノミークラス症候群を防ぐためには、寝る姿勢をなるべく水平にすることが重要です。全員が足を伸ばせる状態をつくるためには、乗用車の場合は大人2人までが推奨されています。スペースがあれば、子ども1人か2人も一緒に避難できます。
駐車する場所は、傾斜地は避けましょう。防犯のため、なるべく街灯や人通りがあるところを選び、ドアはロックをしましょう。近くにトイレがあるといいです。自治体によっては、車中泊用の避難場所を設けているところもあります。
停車時にはエンジンを切り、排ガスが出るマフラーが壁や草、積雪で塞がれないように注意してください。マフラーが塞がれると、有毒な一酸化炭素が含まれる排ガスが逆流して車内に充満し、一酸化炭素中毒になる恐れがあります。
車のシート(座席)をアレンジするのも有効です。主に三つの方法があります。
一つは、運転席と助手席のある1列目のシートをリクライニングする方法です。シートを一番後ろまでスライドして背もたれを倒したら、足元の空間にリュックや段ボールを置いて、足が上げられるようにします。シート上の段差はタオルやクッションなどで埋めましょう。
次は、一番後ろの荷室を使う方法です。1列目は一番前へスライドし、後部座席のある2列目シートを前に倒して荷室と連結するようにします。ただ、このままだと硬いので、アルミマットなどを敷いたうえで、枕代わりになるものを用意すると寝やすくなります。
三つ目は、シートを連結させる方法です。連結させるシートのヘッドレストを取り外し、背もたれを倒してつなげます。車種によって適したシートアレンジの方法が違うので、詳しくはトヨタ自動車の特設サイトなどを参照してください。

助手席をリクライニングして、足元の空間にリュックや段ボールを置いて足が上げられるようにします
エコノミークラス症候群を防ぐためには、次のようなことが大事だといいます。水分をこまめに取る、▽定期的に運動する、▽ゆったりとした服を着て、ベルトをきつく締めない、▽寝るときは足をあげる、▽足首とふくらはぎを適度に圧迫する「着圧ソックス」をはく――などです。息苦しさや足の痛みを感じたら、救護所へ行ってください。
また、暑い時期には熱中症、寒い時期には低体温症の恐れがあります。夏は換気をして水分や塩分をとり、冬は窓ガラスにタオルなどを張って、冷気が入ってくるのを防ぎましょう。天候や気候の条件が悪い時には、車中泊避難をあきらめる判断も大切です。車内には水道がないため、歯を磨けないこともあります。誤って食べ物が食道ではなく気管へ入った時に細菌が肺へ入る病気「誤嚥性肺炎」につながる恐れもあるので注意してください。

新聞紙をガラス窓の上に挟んだ状態で窓を閉めると目隠しになります
車内に車中泊用のアイテムを用意しておくと安心です。平常時に一度、試しに車中泊を体験しておくと、足りないものが分かり、より備えられるようになります。
車中泊ではプライバシーを守ることも大切です。フロントガラスなどを隠す車用のカーテンがありますが、窓に日差しを遮るサンシェードをしたり、タオルを張ったりするのも有効です。接着テープがなければ、新聞紙やタオルをガラス窓の上に挟んだ状態で窓を閉めるだけでも目隠しになります。窓を開けて換気する際は、網戸のようなウインドーネットを使うのもおすすめです。
シートアレンジで使えるマットやタオル、クッションなどのほか、携帯トイレ、着圧ソックス、衣類なども用意するといいでしょう。特設サイトには備蓄品の一覧も載っているので確認してみてください。
(2025年11月5日毎日小学生新聞より)
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