古典落語の有名な滑稽噺の一つ、「目黒のさんま」。秋になると、落語家たちがあちこちで演じます。この噺を聞いたら、きっとさんまを食べずにはいられなくなるほど、おいしそうで、おもしろい!(「Newsがわかる2023年10月号」より)
【英文】
An autumn story about a samurai lord who knows little about the world.
One day, the lord goes on a horseback riding trip to Meguro. Feeling hungry, he asks for his lunchbox, but his subordinates tell him they forgot to bring it. Being disappointed, he notices in the air, a tasty smell he had never smelled before. When he asks what it is, his subordinates answer, “this is the smell of grilled Sanma (pacific saury), a fish for ordinary people. It is not something that suits your noble taste.” The lord snaps, “do not say such a thing in times of importance!” and makes them bring the fish. How delicious the grilled Sanma he ate for the first time under the autumn sky was! Ever since then, the lord becomes infatuated with Sanma.
【和訳】
世間知らずなお殿さまの噺。秋といえば「目黒のさんま」だ。
ある日、お殿さまが目黒まで遠乗りに出かけた時のこと。おなかがすいて昼食をとろうと思ったところ、家来が弁当を忘れてしまったと言う。ガッカリしていると、どこからかかいだことのない、おいしそうな匂いが漂ってきた。お殿さまが匂いの元をたずねると、家来が「この匂いは庶民が食べる下魚、さんまを焼いている匂いです。決して殿のお口に合うものではございません」と答える。「この一大事にそのようなことを言っていられるか!」と怒って、お殿さまはさんまを持ってこさせる。秋の空の下で初めて食べる焼きたてのさんまのおいしかったこと! それからというもの、お殿さまはさんまのことで頭がいっぱいになってしまう。
「目黒のさんま」の噺を英語で表現すると、日常会話で使えるセンテンスがたくさんあります。特に大事なものを見ていきましょう。
秋空の下で食べる、焼きたての脂ののったさんまよりもおいしいものはない、という意味。
昔、さんまのように脂の強い魚は体に悪いとされており、普段、お殿さまは食べられなかったそうです。食べられたものは、家来が毒見をした後の、冷えた淡泊な魚。おいしくなさそうですね。
お殿さまがおいしそうにさんまを食べた後、家来に向かい「その方たちも空腹であろう。苦しゅうない、骨をとらせる」と言います。対する家来は「ありがたき幸せ!」。野良犬でもそんなことは言わないでしょうから、家来というのは大変です。
won’tはwill notの省略形です。さんまのことは他のものには内緒にしてください、とお殿さまは家来に頼まれます。でもお殿さまの頭の中はさんまでいっぱい。それで「わかっておる、そのことは言わん。さんまのことは言わん!」。このパターン、日常会話でも使えますね。
「目黒のさんま」のサゲのせりふです。屋敷の料理人が作った、脂を抜いて小骨を取ってパッサパサになったさんまがおいしくなかったので、お殿さまが「どこで買ってきた?」と聞いたところ「(日本橋の)魚河岸で」と言われたのに対し、「それはいかん、さんまは目黒に限る」。
東京の目黒というと、今ではおしゃれな都会のイメージがありますが、江戸時代は丘と川があって、自然豊かな場所でした。海のない目黒でさんまがとれるわけはないのですが、最後の一言にお殿さまのむじゃきさが表れています。
今でも秋には、この落語にちなんで、目黒駅前で「目黒のさんま祭り」が開催されています。「秋刀魚」と書いてさんま。焼きたての秋刀魚、お祭りで秋の空の下、食べたらおいしいですよお~。