「手足口病」や「マイコプラズマ肺炎」が学校で流行したことはありませんか? 風邪で欠席した経験がある人も多いでしょう。日本でこのごろはやっている「新型コロナウイルス感染症」や「インフルエンザ」を含め、これらは全て「感染症」です。では、どんな病気で、どうやって友達や家族からうつってしまうのでしょうか。感染症に詳しい医師の多屋馨子・神奈川県衛生研究所長に聞きました。【西田佐保子】
◇感染症って何?
私たちの周りには、ウイルスや細菌、カビなど、目に見えないさまざまな微生物が存在しています。微生物の多くは、ヒトに害を与えることなく共存していますが、中には病気を引き起こすものもあります。それが病原体です。この病原体がヒトや動物の体の中に入って増えることで、発熱、鼻水、下痢、発疹などの症状が出る状態を「感染症」といいます。ただ、病原体に感染しても、症状が必ず表れるわけではありません。
「ウイルスと細菌の違いが分からない」という人もいるかもしれませんね。細菌は大きさが1~5マイクロメートル(マイクロは100万分の1)で、理科室の顕微鏡でも観察できます。一方、ウイルスはさらに小さく、細菌の100分の1~1000分の1の大きさです。
また、細菌は栄養分さえあれば自分自身で増えることができますが、ウイルスは生きている細胞に感染してはじめて増えることができる点も違います。昨年流行したマイコプラズマ肺炎の病原体は細菌、手足口病の病原体はウイルスです。
◇どうやって感染するの?
感染源(病原体)、感染経路(体に入り込むルート)、感受性(かかりやすさ)の三つの条件が全てそろってはじめて感染症が起こります。病原体の種類により感染経路は異なります。その一つが「飛沫感染」です。
私たちは、せきやくしゃみ、話す時に、口から細かい水滴が飛び散ります。これが飛沫です。インフルエンザに感染している人の飛沫の中には病原体がいます。その飛沫を吸い込むことで感染します。なお、飛沫には重さがあるので、1~2メートルほどしか飛びません。
人にうつしてしまう時期は感染症によって違います。例えば、新型コロナウイルスは、発症する前の日には、ウイルスが飛沫の中にいます。リンゴ病(伝染性紅斑)は、ほおが赤くなる症状が出た時はすでに感染力はほぼなく、人にうつりません。ほおが赤くなる前に、人へうつします。
◇他に知っておくといい感染経路は?
一つの感染症に感染経路が複数あることは少なくありません。インフルエンザや風邪などは、飛沫感染だけでなく「接触感染」でもうつります。これはドアのノブ、手すりなどについた病原体を触った手で、鼻や口に触れたり目をこすったりして感染するものです。
一方、はしか(麻疹)、水ぼうそう、結核など、「空気感染」という仕組みでうつる病気もあります。飛沫の真ん中には病原体があり、水分が蒸発した後には「飛沫核」という病原体だけが残って、空気中を漂います。これを吸い込むことで感染するのが空気感染です。特に、はしかや水ぼうそうはとても感染力が強く、広い部屋でも同じ空間にいるだけで感染し、ワクチン接種や感染歴がなければ発症します。
他には、病原体を含む水や食べ物を口に入れることでうつる「経口感染」▽病原体をもつ蚊に刺されて感染する「蚊媒介感染」▽血液に含まれる病原体が、ケガをしたところや粘膜などから体へ入る「血液媒介感染」――などがあります。
◇ワクチンは怖くないの?
体内に入った病原体が、治った後に再び体へ侵入しても病気にならないように、病気になっても症状が重くならないように体を守る働きを「免疫」といいます。この仕組みを活用したのがワクチンです。皆さんの多くが小さい頃に、はしか、風疹、水ぼうそうなどを予防するワクチンの接種を受けています。
ワクチンにもさまざまな種類があります。ウイルスや細菌などの病原体を症状が出ないほど弱くして作る「生ワクチン」、病原体の感染する力をなくした(不活化した)ものを使う「不活化ワクチン」などです。
皆さんも、薬を飲むことはありますよね。ワクチンもその一つです。副作用がゼロの薬はありません。ワクチン接種の後に熱が出ることなどもありますが、実際に感染症にかかったら症状はずっと重くなります。事前にどんな副反応(ワクチンの副作用のことを副反応といいます)が起こる可能性があるかをかかりつけ医の先生などに聞いて、接種した日は無理せず、体調に気を付けましょう。
◇できる対策は?
最も重要なのはワクチン接種です。感染症にならないようにしたり、かかっても症状を軽くしたりする役割があります。全ての感染症にワクチンがあるわけではありませんが、感染症には命に関わるものもあります。ワクチンのある感染症は、ワクチンでしっかり防ぎましょう。
一方、ワクチンがない感染症は、感染源と感染経路を取り除くことが、第一の予防対策になります。まず重要なのが手洗いです。手についたウイルスを洗い流し、吸い込んで感染しないようにします。手は手首の上まで、できればひじまで、泡立てたせっけんで洗いましょう。うがいも大切です。
また、マスクの着用で、手についた病原体が口や鼻に入ることを防ぐのも有効です。せきやくしゃみが出るなど体調が悪い時にはマスクを使いましょう。感染していた場合、飛沫が飛ぶ1、2メートルのところの人へ感染が広がるのを防ぐことができます。混雑した場所でもマスク着用をおすすめします。また、感染症が流行している時期には、人混みを避けることも大切な感染予防となります。(2025年01月29日毎日小学生新聞より)