「雑草生態学」を専門とする農学博士で、静岡大学農学部教授の稲垣栄洋さんが監修した『ほんとうはびっくりな植物図鑑』から一部を抜粋して、「だれかに話したくなる植物のふしぎ」を全6回にわたってご紹介します。
たとえば、ジャガイモには「くぼみ」があります。その「くぼみ」から芽がでますが、「くぼみ」はらせん状になっているのをご存じでしたか?そもそも、どうしてらせん状なのでしょうか?
また、“ペンペン草”と呼ばれるナズナの仲間、シロイヌナズナは、自分の体が虫にかじられると、その虫を追い払い、自分の身を守ろうとします。ここでまた疑問が一つ。植物は動けないのにどうやって追い払うのでしょうか?
今回は信じられないような「びっくりするしかけ」の植物を一部ご紹介します。
やっと水をもらえたトマトは超音波で大喜びする
トマトは、ナス科の多年草(日本では冬に枯れる一年草)で、世界中で栽培されているおなじみの野菜です
実にはさまざまな栄養が含まれていますが、特にうまみ成分であるグルタミン酸の濃度が高く、ソースなどにも使われます。
トマトの茎の中では、水の流れで微細な空気の泡が破裂することがあり、その際「超音波」が発生します。
トマトは与える水を減らしたほうが実が甘くなりますが、水を減らしてストレスを感じていたトマトに水を与えると超音波が増えます。
イラスト・下間文恵/提供・SBクリエイティブ株式会社
水を待ちわびたトマトは水をもらう喜びの超音波をだすのです。
なお、トマトがストレスを感じるほど水を減らすと木が弱くなってしまいます。
音楽を聴いたブドウはおいしくなる
ブドウは、ブドウ科のつる性落葉低木です。
果実が甘く、栄養に富むため、古代から大規模に栽培されてきました。ブドウは生で食べるだけでなく、ジュースやワインの原料としても大量に消費されています。
最近、ブドウに音楽を聞かせながら育てると、音楽を聞かせていないものに比べて成熟が早く、果実の味や栄養もすぐれているという研究結果が発表されました。
もちろん、ブドウが音楽を聞いてノリノリになっているわけではありません。
音楽に含まれる低周波は(100㎐〜500㎐)が、根の成長によい影響を与えているといわれています。
雨の知らせで種を飛ばす
ネコノメソウは、ユシノシタ科の多年草で日本の北海道や本州などの湿地に生えています。
4~5月に薄い黄緑色の目立たない花を咲かせ、その後、緑色の果実ができます。
果実は、種が熟すと上部がさけて楕円形に開きます。そのようすが「猫の目」にそっくりなので、ネコノメソウと呼ばれるようになりました。
ネコノメソウの1つの果実には、10~20個の小さな種が入っています。
イラスト・下間文恵/提供・SBクリエイティブ株式会社
果実に雨粒などの水滴があたると、その衝撃で種が飛ばされ、離れた場所に広がるしくみになっています。
このようなしくみで種をまく植物を「水滴散布型(すいてきさんぷがた)」と呼びます。
いかがでしたでしょうか。もっと知りたい方は、『ほんとうはびっくりな植物図鑑』でご覧ください。
来週は、驚きの方法を使って自分の身を守る植物たちをご紹介します。
紹介した本はコチラ
タイトル:
ほんとうはびっくりな植物図鑑
ありふれた草花の秘密がおもしろい!
著者:石井英男(文)稲垣栄洋(監修)
下間文恵(イラスト)
出版社:SBクリエイティブ
定価:1,320円
全国書店等にてお買い求めいただけます
書影をクリックすると本の通販サイト
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著者プロフィール
[監修]稲垣栄洋(いながき ひでひろ)
1968年静岡県生まれ。静岡大学農学部教授。農学博士。専門は雑草生態学。岡山大学大学院農学研究科修了後、農林水産省に入省。静岡県農林技術研究所上席研究員などを経て、現職。著書に、『生き物の死にざま』(草思社)、『身近な雑草の愉快な生きかた』(ちくま文庫)、『弱者の戦略』(新潮社)、『たたかう植物』(筑摩書房)、『面白くて眠れなくなる植物学』(PHP エディターズ・グループ)などがある。
[文]石井英男(いしい ひでお)
1970年大阪府生まれ。東京大学工学部材料学科卒業、東京大学大学院工学系研究科材料学専攻修士課程修了。ライター歴30年。高校生の娘と中学生の息子の親として子どもの教育に熱心で、小中学生向けプログラミング書籍も執筆。「CoderDojo 守谷」のメンターとして子どもたちにプログラミングを教えながら、市民農園を数年借りて野菜を育てたこともある。