推しの城 おもシロ ランキング【月刊ニュースがわかる2月号】

どうして夢をもつの? <子どもの哲学>

 誰もが一度は抱いたことのあるような問いについて、4人の哲学者が、子どもたちとともに考え進めていくという形で書かれた『子どもの哲学 考えることをはじめた君へ』(毎日新聞出版刊)。大人も子どももいっしょになって、ゆっくりと考えてみませんか。本書から一部をご紹介します。本書のもとになった「てつがくカフェ」は、毎日小学生新聞で毎週木曜日に連載中です。

「恋」に似ていて理屈じゃない……ツチヤくん

 「夢」というのは、何か理由や必要があってもつんじゃなくて、気がついたら自然と抱いてしまっているもののような気がする。僕は、小さいころなりたいなあと思っていちばん最初に抱いた夢が天文学者だったことをよく覚えている。でもそれは、星や宇宙がすごく好きだったからで、それ以上の理由はなかった。星や宇宙のことをもっともっと知りたかったから、それについてなんでも知っている天文学者にあこがれたんだと思う。

 夢ではなくて「目標」なら、それをもつことにはちゃんとした理由がある。自分が目指していることをはっきりと設定して、それにたどり着くまでの計画をきちんと立てることで、物事を効率よく進めていけるし、なまけるのを防げるからね。

 でも、夢はそういうものじゃない。夢は恋に似ていて、理屈じゃないんだ。誰かを好きになってしまうのはどうしようもないことであるのと同じで、ああいうふうになりたいというあこがれの気持ちを抱いてしまうのも、どうしようもないことなんだ。

 だから、アイドルや漫画家になるのはすごく難しいと頭ではわかっていても、夢を見ることは止められないし、夢をあきらめることもなかなかできない。夢を抱いたりあきらめたりすることは自分でもコントロールできないということが、夢の素晴らしいところでもあるし、恐ろしいところでもあるね。

現実の世界を支えるもの……コーノくん 

 夢って、眠っているときに見る夢も、夢って呼ぶよね。だから、ツチヤくんが言うように、目が覚めているときにはっきりした目標や目的をもつことと比較して、ぼんやりしていてあんまり現実的でなく、いまの生活から遠くてどうすれば実現できるかよくわからないけれども、そうなれたらいいなあという将来の希望を「夢」っていうんだね。

 でも、はっきりした目標や目的をもつこと以外に、漠然としている夢なんかをもつ必要はあるのかな? 

 私は、夢をもつことは大切なんじゃないのかなって思う。目標に向かっていつも努力しているけれど、ぼんやりした大きな夢はもっていない人って、どこか忙しなく日々を過ごしてしまうんじゃないのかな。その毎日の努力も、夢がないと最終的にどこに向かっているのかを見失ってしまいそうな気がする。

 夜見る素敵な夢や、将来こうなりたいなという昼間の夢。そんな非現実的であいまいなものに支えられた現実の生活のほうが、かえって方向性を見失わなくていいんじゃないかなって思うんだ。

あたりまえを変える夢の力……ゴードさん 

 「将来の夢は何?」って、ときどき大人に聞かれる。わからないって答えると、なんだかがっかりされてしまうから、それではいけないのかなと感じる。でも、将来の夢なんて、なくてもいいと思うんだ。いまの生活がとても楽しくて、遠い未来のことなんて考える必要がないのかもしれない。あるいは、やってみたいことがたくさんあって、一つに決められないのかもしれない。だから、将来の夢をもっていないことは、ちっとも悪いことじゃない。それなのに、どうして大人は、夢がないって言うとがっかりするんだろうね。

 ところで夢って、寝ているときに見る夢と、未来について考える夢のほかに、もう一つ種類がある。それは、昼間起きているときにする空想のこと。

 たとえば、空を見上げて鳥みたいに飛べたらいいのになと思ったり、勉強が退屈なときに学校の授業が一日中体育だったらいいのになと思ったりする。そういうことばかり考える人は「夢見がち」だと言われて、これはあまりいい意味の言葉ではないのだけれど、こういう夢を見ることはほんとうはとても大切なんじゃないのかな。それは、世のなかであたりまえだとされていることはもっと違っていてもいいし、変わっていってもいいんだと気がつくことだから。

 むかしは人間が空を飛ぶことはできなかったけれど、空を飛べたらいいのにって夢を見た人がいたから、飛行機やヘリコプターが発明されたんだよね。だから、こういう楽しい空想はたくさんしたほうがいいと思う。

まとめ 夢をもつことの意義……ムラセくん

 ツチヤくんは、夢は恋みたいなものと考えている。二つが似ているところは、それを抱くのに理由が必要ないところだ。つまり、夢は知らぬ間に理由もなくもってしまうものなんだ。理由がないのだから、この問いにはある意味、答えがない。もし理由がはっきりとあったのなら、それは夢ではなく目標になるというんだね。夢や恋は、理由なく自然にわいてくるものだから、両方ともあきらめることが難しいんだね。きっとツチヤくんはそんな夢をもっていて、そんな恋もいろいろしてきたんだろうなあ。

 コーノくんは、そうした夢を、夜に見る夢と比べている。二つが似ているところは、非現実的でぼんやりしているところだ。そして、そういうぼんやりとしたものが現実の生活を裏から支えていて、方向性を定めてくれる。そうコーノくんは言っている。

 ゴードさんは、もう一つの「夢」として、空想を挙げている。「夢見がちな人」の夢だ。夢見がちな人たちの夢は、世界を変えてきた。僕たちの身のまわりにある便利な発明品の多くは、こういう夢見がちな人たちの夢から生まれてきたんだ。

 こうして考えてみると、夢をもつことにはいろいろな「効果」がありそうだね。もしかすると大人たちが子どもに夢をもってほしいのは、こういう効果を期待しているのかもしれない。ゴードさんが言うように、いまが楽しくてあれこれ考えているひまはないかもしれないけれど、夢に効果があるのなら、自分にはどんな夢があるのか一度くらい考えてみるのもいいかもしれないね。

<4人の哲学者をご紹介します>

コーノくん 河野哲也(こうの・てつや)

慶應義塾大学大学院文学研究科博士課程修了。専門は哲学・倫理学・教育哲学。現在、立教大学文学部教育学科教授。NPO法人「こども哲学おとな哲学アーダコーダ」(副代表理事)などの活動を通して哲学の自由さ、面白さを広めている。

ツチヤくん 土屋陽介(つちや・ようすけ)

千葉大学大学院社会文化科学研究科博士課程満期退学。博士(教育学)(立教大学)。専門は子どもの哲学(P4C)・応用哲学・現代哲学。現在、開智国際大学教育学部准教授。

ムラセくん 村瀬智之(むらせ・ともゆき)

千葉大学大学院人文社会科学研究科修了。博士(文学)。専門は現代哲学・哲学教育。現在、東京工業高等専門学校一般教育科准教授。

ゴードさん 神戸和佳子(ごうど・わかこ)

東京大学大学院教育学研究科博士課程満期退学。専門は哲学教育。現在、長野県立大学ソーシャル・イノベーション研究科講師。中学校・高等学校等での対話的な哲学の授業のほか、哲学カフェ、哲学相談などの実践・研究も行っている。

 

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