新潟県にある「佐渡島の金山」が、国際連合教育科学文化機関(ユネスコ)の世界文化遺産に登録されました。これで日本の世界遺産は、文化遺産21件、自然遺産5件の計26件になりました。世界遺産は、どのように選ばれるのでしょうか。また、新たに登録された「佐渡島の金山」はどんなところなのでしょうか。知りたいんジャーがせまります。【篠口純子】
◇世界遺産ってなに?
1972年にユネスコの総会で、世界遺産条約が採択されました。地球の長い歴史の中で生まれ、受け継がれてきた自然や建造物、遺跡などを「人類共通の財産」として世界遺産に登録し、保護する国際条約です。
きっかけとなったのが、エジプトによるナイル川流域へのアスワンハイダムの建設でした。ダムが完成すると、古代エジプト文明の遺跡・アブシンベル神殿が水没してしまう危機に直面しました。ユネスコが遺跡の保護を国際的に呼びかけ、神殿は移築されました。79年に、神殿は周辺のヌビア遺跡とともに世界遺産に登録されました。
世界遺産には、歴史的建造物や遺跡が対象の「文化遺産」、貴重な生態系などの「自然遺産」、両方の特徴を備える「複合遺産」の3種類があります。世界で文化遺産952件、自然遺産231件、複合遺産40件の計1223件が登録されています。ただ、開発や紛争などで遺産の価値が損なわれると、登録を取り消されることもあります。
◇どうやって決まるの?
世界遺産条約には、196か国が参加しています。各国は世界遺産候補を「暫定リスト」に載せ、その中から準備ができたものを選んでユネスコに推薦書を提出します。一つの国が推薦できるのは、1年に1件です。
ユネスコに意見を述べる組織「国際記念物遺跡会議(イコモス)」や「国際自然保護連合」が詳しく調査し、「登録」「情報照会(追加情報の提出)」「登録延期(推薦書の出し直し)」「不登録」の4段階で評価します。この調査結果をもとに、毎年7月ごろに開かれる世界遺産委員会で話し合い、登録するかどうかを決めます。世界遺産委員会で「不登録」となると再挑戦ができないため、イコモスなどの評価次第で、提出した国が推薦を取り下げることもあります。
◇「佐渡島の金山」ってどんなところ?
「西三川砂金山」と「相川鶴子金銀山」の二つの鉱山遺構で構成されています。
「西三川砂金山」は、安土桃山時代末期から江戸時代初期に、飛躍的に産出量が増えました。採掘の跡や、採取の仕事をした人たちの集落が残っています。
「相川鶴子金銀山」は、相川金銀山と鶴子銀山から成っています。相川金銀山は国内最大の金産出量を誇り、江戸幕府の財政を支えました。江戸時代、海外では機械化が進んだのに対し、佐渡では採掘、精錬(金の純度を高める作業)などが人の手で行われていました。伝統的な手工業による技術や体制を築き、質の高い金を大量生産した点に価値があるとしています。
なお、国の役所・文化庁によると、世界遺産の名前には島であることを示す「島」の字が入っていますが、地元ではこの地域のことを「さど」と呼んでいるため、それを踏まえて読み方は「さど」を採用しています。
◇次の世界遺産候補は?
日本が世界遺産にしたいと考えてユネスコに提出している「暫定リスト」には、「古都鎌倉の寺院・寺社ほか」(神奈川県)▽彦根城(滋賀県)▽「飛鳥・藤原の宮都とその関連資産群」(奈良県)など文化遺産4件が掲載されています。
このうち政府は9日、2026年の世界文化遺産登録を目指し、「飛鳥・藤原の宮都」を推薦することにしました。天皇の宮殿跡である飛鳥宮跡や藤原宮跡、鮮やかな「極彩色」の壁画が発見された高松塚古墳など22の資産で構成されています。
一方、鎌倉の関連では「武家の古都・鎌倉」という名前で過去に1度推薦されましたが、13年にイコモスから「歴史的重要性を証明する証拠が少ない」と「不登録」の勧告を受け、推薦を取り下げました。
また、「彦根城」は23年にユネスコに事前評価を申請しました。今年10月に結果が届く見通しで、結果次第で推薦するかどうかを決めます。推薦した場合、早ければ27年に登録が決まります。
◇何か韓国ともめていたの?
「佐渡島の金山」をめぐっては韓国が、日本の植民地時代に朝鮮半島出身者が強制労働させられていたとして、登録に反発してきました。韓国は21か国からなる世界遺産委員会の委員国の一つで、世界遺産の登録には委員国全ての賛成が原則必要です。
イコモスは6月、4段階のうち上から2番目の評価の「情報照会」を勧告しました。もともと日本政府は、登録範囲を16世紀末~19世紀半ばの江戸時代に限定し申請していました。これに対してイコモスは6月の勧告で、江戸時代に限らず全期間の金山の歴史を説明する展示戦略をつくり、施設などを整えることを追加で求めました。
そこで日本政府は、地元の「相川郷土博物館」に金山の労働者に朝鮮半島出身者が含まれたことや、日本人に比べて作業が過酷だったことを示すパネルなどを新たに設置しました。この対応を受けて、韓国も登録に賛成しました。(2024年09月25日毎日小学生新聞より)