【ニュースがわかる2024年11月号】巻頭特集は世界が注目! アメリカ大統領選

三淵嘉子さん 「虎に翼」主人公【ニュース知りたいんジャー】

放送中のNHK連続テレビ小説「虎に翼」の主人公のモデルは、日本初の女性弁護士の一人で、初の女性判事(裁判官)、裁判所長になった三淵嘉子さんです。男性ばかりの法律の世界で道なき道を切り開き、子どもや女性を救うために奮闘しました。三淵さんが生きた時代や女性の権利について、知りたいんジャーが迫ります。【篠口純子】


 ◇どんな人なの?

 三淵さんは1914年、台湾銀行に勤めていた父の赴任先のシンガポールで生まれました。帰国後、東京府青山師範学校付属小学校(現在の東京学芸大学付属世田谷小学校)、東京女子高等師範学校付属高等女学校(現在のお茶の水女子大学付属高校)を経て、法律を学ぶことを決意します。
 女学校での勉強は、「良妻賢母」になるための家事や裁縫などに重点が置かれ、卒業したら結婚する女性がほとんどでした。このため三淵さんの母は「(妻として)もらい手がなくなる」と法律を学ぶことに猛反対したそうです。ただ、父は「男と同じように政治でも、経済でも理解できるようになれ。それには何か専門の仕事をもつための勉強をしなさい」と背中を押しました。
 明治大学専門部女子部法科へ入学し、卒業後、明治大学法学部に編入。38年に高等試験司法科(現在の司法試験)に合格して、弁護士になりました。

三淵嘉子 新潟家庭裁判所長(女性初の裁判所長)


 ◇どんな活躍をしたの?

 「女性法曹のパイオニア(開拓者)」といわれています。
 結婚して息子をもうけましたが、終戦前後に弟、夫、両親の4人を亡くします。幼い一人息子と弟3人を養わなければなりませんでした。終戦後、男女平等をうたう日本国憲法ができたことから、裁判官を目指します。
 1947年、裁判官としての採用願を司法省(現在の法務省)に提出しました。民事部(現在の民事局)に採用され、民法の改正や家庭裁判所の設立に携わりました。49年に東京地方裁判所で判事補)(裁判官)になり、52年に名古屋地方裁判所(愛知県)で女性初の判事になりました。
 72年には、新潟家庭裁判所で女性初の裁判所長に。浦和(埼玉県)と横浜(神奈川県)の家庭裁判所長も務め、79年に退官しました。生涯で5000人を超える少年少女の裁判にあたる「審判」を行いました。


 ◇この時代の女性の権利は?

 1946年に日本国憲法ができるまで、女性の権利は制限されていました。選挙権がないばかりか、一家の長である男性が家族を統率する「家父長制」が民法で定められていたため、女性は父や夫に従うものとされていました。家長の同意がなければ結婚できず、結婚した女性は「法律上無能力」と位置づけられ、夫の許可がなければ働けませんでした。
 大学への入学も認められず、女性が学べる大学は九州帝国大学、東北帝国大学など、わずかしかありませんでした。三淵さんの母校の明治大学は、29年に専門部の一部門として女子部を設置。31年には、女子部の卒業生に大学の学部への入学を認めました。
 弁護士になれるのは日本人男子だと弁護士法で決められていましたが、33年に改正され、女性に道が開かれました。三淵さん、中田正子さん、久米愛さんの3人が高等試験司法科に合格し、初の女性弁護士となりました。しかし、裁判官になるための司法官試補の採用では「日本帝国男子に限る」とされ、当時は女性が裁判官になることはできませんでした。

久米愛 日本婦人法律家協会会長 男女差別について語る

日本初の女性弁護士の中田正子さん /鳥取


 ◇裁判官、検事、弁護士って?


 犯罪などを扱う裁判では、裁判官は、検事(検察官)や弁護士の主張を聞いたり、証拠を調べたりして、訴えられた人が犯人かどうかを決めます。判事とは、キャリアを積んだ裁判官のことです。
 これに対して検事は、犯罪や事件を調べ、罪を犯した疑いのある人を裁判に訴えます。訴えられた人の権利を守るのが弁護士です。
 ドラマでは、裁判を行う法廷のシーンが多く出てきます。戦前の法廷シーンで、裁判官、検事、弁護士は法服を着ています。これは1890~1947年に使われていたものです。法服の黒色は、これ以上何にも染らないという「公正の象徴」を表しています。唐草模様のししゅうが施され、その色は裁判官が紫、検事は赤、弁護士は白と分けられていました。

夏休み子ども見学会 最高裁で判決言い渡しの体験をする小学生たち /東京


 ◇裁判所の種類は?


 裁判とは、法律を使って、もめ事などを解決する手続きのことです。裁判所には、最高裁判所▽高等裁判所▽地方裁判所▽家庭裁判所▽簡易裁判所――の五つの種類があります。裁判所が出した判決に納得できないときは、上級の裁判所に訴えることができます。原則として3回まで、同じ件について裁判を受けることができます。最高裁判所は東京にあり、全国で1か所だけです。
 裁判所で扱うもめ事は、日常生活で起きた争いごとを解決する民事裁判▽犯罪の疑いのある人が本当に罪を犯したかどうかを決める刑事裁判▽家族の間の争いごとを解決する家事審判・家事調停▽悪いことをした子どもを立ち直らせる少年審判――があります。(2024年08月07日毎日小学生新聞より)