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グローバルの窓 “What do you think ?” ~彼女どう思う?~

神田外語キャリアカレッジは、神田外語大学や神田外語学院を母体とする神田外語グループの一事業体として、語学を起点にグローバル社会における課題の解決やプロジェクトを推進できる人材の育成に取り組んでいます。今回はそんな当校の代表、仲栄司のグローバルビジネスでの体験談をお送りいたします。グローバル環境の中で仕事を進める上でのヒントや異文化についての気づきなど体験談を交えながら繰り広げられる世界には、失敗談あり、ハラハラ感あり、納得感あり。ぜひお気軽にお読みください。

 イタリア人のワーキングスタイルはおもしろいです。イタリアの会社は9時始まりで、私はだいたい8時45分くらいに出勤しました。最初の頃は、オフィスに着くやすぐにパソコンに電源を入れ、仕事にとりかかりましたが、あるときからイタリア人の同僚が毎朝9時くらいに私のところに来て、“Andiamo ”(行くぞ)と誘いに来ます。オフィスには、コーヒーコーナーがあって、50円くらいでコーヒー1杯が飲める自動販売機がありました。そこへ行くぞというのです。「朝からいきなり飛ばすなよ、まずはコーヒーでも飲もうぜ」ということらしいのです。

 そこでコーヒーを飲みながら、「昨晩のロベルト・バッジョはすごかった。ファンタジスタだぜ」とか「奥さんはイタリアに慣れたか」といった会話が始まるのです。ロベルト・バッジョとは、当時のセリエA(イタリアサッカーリーグ)最高のプレーヤーでした。今でこそメッシやクリスティアーノ・ロナウドといったファンタジスタがいますが、バッジョがファンタジスタの先駆けだったように思います。そのあとジダンやロナウジーニョといったファンタジスタが続きました。

 また、イタリア人はサッカーが大好きで、ミラノダービーの日は大興奮します。ミラノダービーとは、ミラノにあるサッカーチーム同士の戦いをいいます。インテルとミランですね。

 そんな調子で20分ほど会話したあと、席にもどって仕事を始めるのが習慣になりました。朝のコーヒーコーナーでのひとときは、いわばウォーミングアップ。おしゃべり好きの彼らは、まずはみんなの状況を確認し合い、会話で心身をほぐしながら仕事に向かうのです。

 同僚とは仕事のことでよく話もしました。あるとき、オフィスの廊下でビジネスの話をしていたときのことです。新しく入った会社の女性がすっと我々のそばを通っていきました。同僚も私も思わず、彼女に見とれてしまいました。と同僚が “What do you think ?”と聞きます。私は、”She is cute”と答えます。すると間髪入れず、同僚は”I agree with you”と笑い返してきます。そのあと、何もなかったかのように、またビジネスの話が再開されるのです。

 私はこの会話のリズムや感覚がとてもいいと思いました。それまで真剣にビジネスの話をしていたのが、突然会話が途絶え、お互い一つの方向に目が向き、そのあと、何もなかったかのようにビジネスの話へまた戻っていきます。その呼吸とテンポが実にナチュラルでさりげないのです。大事なことは絶対に見逃さない。だけど、それはそれ、ビジネスはビジネスで、しっかりと話は元にもどっていくのです。

 私はイタリアやイタリア人の男性が大好きですが、一番好きなのは彼らが天性持っているこうした感覚や気分ではないかと思います。不真面目ではないのです。否、大いに真面目なのかもしれません。人生の大事な局面は絶対に見逃さないし、それを楽しむ。人生にしっかり向き合っているのです。

 あのとき交わしたビジネスの話は、彼女が通り過ぎたあと、一層白熱しました。お互い調子が出ていい議論になりました。もし、ドイツ人だったら「よそ見をするな。今、まじめなビジネスの話をしているんだから」と言われたかもしれません。

 イタリア人は、多分、人生で何が大事かということをわかっているのでしょう。本社から緊急の要請があり、私が慌てているときなど、”Don’t panic, don’t panic.”とよく言われました。「そんなに慌てても大勢に影響ないよ」と言わんばかりで、こちらも阿呆らしくなり、あるときから私も開き直ることができました。イタリア人はやっぱり人生の達人だとつくづく思いました。

著者情報:仲 栄司

大学でドイツ語を学び、1982年、NECに入社。退職まで一貫して海外事業に携わり、ドイツ、イタリア、フィリピン、シンガポールに駐在。訪問国数は約50カ国にのぼる。NEC退職後、 国立研究開発法人NEDOを経て、2021年4月より神田キャリアカレッジに。「共にいる時間を大切に、お互いを尊重し、みんなで新たな価値を創造していく」、神田外語キャリアカレッジをそんなチームにしたいと思っています。俳句と歴史が好きで、句集、俳句評論の著書あり。