全長100キロメートルにおよぶ元日の風物詩「ニューイヤー駅伝」は、日本陸上界を代表する中・長距離選手たちの最高峰の戦いの舞台といえる。一方、駅伝(陸上)ファンにとっては2024年に開催されるパリ五輪に向けて観戦が欠かせない大会だ。大会を前にセンター実況を務めるTBSの新夕悦男アナと若手アナ3人が、駅伝の魅力と実況中継の面白さ、今大会の見どころを語り合った。(『ニューイヤー駅伝2024inぐんま 第68回全日本実業団対抗駅伝競走大会公式ガイドブック』より)
新夕 小沢アナと高柳アナは前回がニューイヤー駅伝での実況デビューでした。どうでしたか?
小沢 前回大会では第2、第5中継所の実況を担当しました。振り返ってみると、いろんなことを意識しすぎて浮足立ってしまったというか、しゃべりながら自分のテンションが抑えきれなくなっていました。
動く現場を見つめながら冷静に正しく、かつ熱く伝えることの難しさを感じた元日だったので、今回はリベンジしたいという思いが強いです。
新夕悦男(にった えつお)
1974年生まれ。世界陸上や世界バレーなど数々のスポーツ番組に出演。2021年のニューイヤー駅伝からセンターでメイン実況を担当。趣味は釣り。
高柳 私は幼い頃からニューイヤー駅伝をテレビ観戦する家庭で育ちました。そこに自分が加わって、放送する側になったのが楽しくもあり、不思議な感覚でした。
前回は第3、第6中継所の実況を担当して、番組に自分のエッセンスを加えられたことは嬉しかったです。ただ、伝えたいことがあふれてしまい、咀嚼できないまましゃべってしまった点もありました。今回は自分本位の実況ではなく、視聴者や選手の目線を考えながら実況したいと思います。
新夕 前回のふたりの姿を見ていて、今ある自分を無理せずちゃんと表現してくれたな、と思いました。悔しい思いもあるでしょうが、それが今も生きているのは嬉しいです。
さて今回は、2年目の古田アナが新しく実況に加わることになりました。古田アナは前回の小沢アナと高柳アナの姿を現地の群馬で見ていて、「やらせてください」と直接言ってきてくれました。
古田 前回はラジオ中継でリポーターをしていました。アナウンサー陣が一致団結して群馬に行ったのですが、地上波とラジオではブースが離れているので、少し悔しい気持ちもありました。ラジオの仕事には一生懸命取り組みましたが、先輩の小沢アナ、高柳アナの活躍を見て、挑んでみたいと思いました。
新夕 いい刺激になったのですね。古田アナは東日本予選で中継所実況を担当してもらいましたが、どうでしたか?
古田 ……悔しかったです。自分の中ではしっかり準備をして挑んだつもりでしたが、実際のレースでは反応できず、準備してきたことが出せずに終わってしまいました。
小沢光葵(おざわ こうき)
1998年生まれ。「ひるおび」や「JNNニュース」などに出演中。2023年のニューイヤー駅伝では第2・第5中継所を担当。趣味はミュージカル鑑賞。
高柳光希(たかやなぎ こうき)
1998年生まれ。「Nスタ」や「JNNニュース」などに出演中。2023年のニューイヤー駅伝では第3・第6中継所を担当。特技はバク宙。
古田敬郷(ふるた うきょう)
1999年生まれ。「THE TIME」や「ラヴィット!」などに出演中。2023年のニューイヤー駅伝のラジオ中継でスポーツ中継デビュー。プロボクサーの資格も。
新夕 終わった後の一言目が「悔しいです!」でしたね。
これは小沢アナと高柳アナにも伝えたことなのですが、守りに入らずに攻めた方がいい。周りを気にしてもいいことがないですし、若いうちは必ず失敗します。中途半端な失敗より盛大に失敗した方が、後になって自分に返ってくるものも大きい。守りに入ったら何も返ってこない。攻めたら攻めただけ、大きいものが返ってくるものです。そのくらい思い切ってやってほしいなと思います。
私の失敗談としては、初めての移動車のとき頭の中に情報をバンバン詰め込んだもののそれを読むだけになってしまい、目の前の実況、瞬間瞬間の切り取り、他の移動車や中継所の熱量をつなぐことができず、プロデューサーから「お前の実況で番組全体の流れが止まっている」と指摘されました。我々も中継をしながら「我々のタスキ」をつないでいるのに、それを私が途絶えさせていたんです。
これは今でも中継に携わる際の戒めになっています。攻めた結果の失敗ではありませんが、大きな失敗が自分に与えた大きな影響として心に残っています。とにかく経験することが大事です!
古田 はい!
新夕 今回のニューイヤー駅伝、レース展開はどうなると思いますか?
小沢 東日本予選の走りを見ると、1分以上の差をつけて優勝した富士通と、ニューイヤー2連覇中のHonda。この2チームには注目してしまいますね。
高柳 今回、予選ではマラソングランドチャンピオンシップ(MGC)の影響で、予選に主力選手を出場させることができなかったチームもあります。そこがニューイヤーではどう台頭してくるかも見どころだと思います。
あと、予選ではふるわなかったHondaのイェゴン・ヴィンセント選手も、彼の潜在能力ならこれからの1カ月でぐっと力を上げて、箱根駅伝のような激走を見せてくれるんじゃないかと期待しています。
東京国際大学時代には「史上最強の留学生」として名をはせたHondaのイェゴン・ヴィンセント=岐阜市で2023年9月23日
古田 私は東日本予選で下位だったGMOインターネットグループやコニカミノルタが、どれだけ上位に上がってくるのか注目しています。
新夕 ヴィンセント選手も強いけど、トヨタ紡織のマル・イマニエル選手もとても強い。中部予選で区間賞をとっています。
今回、各地の予選を見ていると逆転勝利が多いのですね。関西で優勝したNTT西日本は1分14秒差をつけられていましたが、一色恭志選手が逆転しました。中部ではトヨタ自動車が26秒負けていたのを太田智樹選手が逆転して、35秒差まで広げました。九州では黒崎播磨が優勝しましたが、主力を欠いていた旭化成が6区で3秒差まで詰め寄っています。中国では中国電力の菊地駿弥選手が1分2秒差を逆転して優勝しています。駅伝は本当に何が起こるかわからないので、全チーム見逃せないですね。
それから今回、コースが変わります。15キロ以上の区間が一つ増えて、新2区が最長の21・9キロというエース区間になります。エース級、準エース級の選手の選択がカギになりそうです。また、向かい風を受ける4区が、外国人選手を起用できるインターナショナル区間になります。エース区間の2区で差ができたとしても、4区で差を詰められるかもしれない。後半の流れも目が離せないですね。
新夕 皆さん、絶対に見てほしいという注目選手はいますか?
小沢 SUBARUの口町亮選手です。前回、ゴール前の「口町ロケット」を目にしたとき、とても衝撃を受けました。本当にロケットのような走りを見せてくれて、このニックネームは口町選手にぴったりだと思いました。
2023年のニューイヤー駅伝ではアンカーを務めたSUBARUの口町亮=前橋市で2023年1月1日
高柳 私はトヨタ自動車とヤクルトの太田兄弟ですね。高校の頃から同じ競技場で見ていましたが、当時から本当に強かった。兄の智樹選手(トヨタ自動車)も実力者ですが、弟の直希選手(ヤクルト)が1区を走った東日本予選では最後の最後に逆転して区間賞でした。もしニューイヤーでふたりが同じ区間を走ることになったら、実況する側も見方が変わってしまいますね。
新夕 智樹選手は強いよね。早くマラソンで見たいな。兄弟でいうと、今回の西鉄には2018年にマラソン日本記録を更新した設楽悠太選手と、お兄さんの啓太選手もいます。あとはMGC組で本来の力を出せなかった選手、例えばトヨタ自動車の西山雄介選手やJR東日本の其田健也選手、三菱重工の山下一貴選手の走りにも注目です。
トヨタ自動車・太田智樹(中央)と西山雄介(手前右)=群馬県伊勢崎市で2023年1月1日
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新夕 では最後に、今回の駅伝実況の抱負をお願いします。
小沢 私は、駅伝を見ている人が「あ、この後面白くなりそうだな」と思えるような実況をしたいと思います。2023年は8月に世界陸上、9月にアジア大会、10月に実業団陸上、MGC、プリンセス駅伝、11月は7人制ラグビー、クイーンズ駅伝と、激動の一年でした。ニューイヤー駅伝は2024年の元旦に開催されますが、2023年の集大成を見せることができたらよいと思います。
新夕 高柳アナはどうでしょう。
高柳 プリンセス駅伝や東日本予選では、新夕アナや先輩から攻めの実況ができていると言ってもらえました。そこを貫きつつ、より視野を広げて、選手や視聴者の気持ちに立って、さらに自分の気持ちもそこに乗せられるような、熱い実況をしたいと思います。
新夕 デビューとなる古田アナはどうでしょう。
古田 とにかく「挑戦」という目標を持っています。守りに入らず、声を出して選手やレースの魅力を伝えたいと思います。目指すべき先輩が近くにいるので。
新夕 ありがとうございます。私は今年も解説の金哲彦さんと一緒に、視聴者と同じ目線になってわいわい楽しんでやりたいと思います。皆さん、一生懸命頑張ってください。期待しています!
1月1日(祝・月)8:30~14:30 TBS系列28局フルネット生中継
放送センター:金哲彦 ゲスト解説:神野大地 1号車解説:尾方剛 リポーター:増田明美
実況
放送センター:新夕悦男 1号車実況:佐藤文康 2号車実況:熊崎風斗 3号車実況:小沢光葵
バイク実況:喜入友浩 中継所実況:南波雅俊/齋藤慎太郎/高柳光希/古田敬郷
中継所インタビュー
近藤夏子/篠原梨菜/佐々木舞音/南後杏子
ニューイヤー駅伝2024inぐんま
第68回全日本実業団対抗駅伝競走大会公式ガイドブック (サンデー毎日増刊)
Hondaの3連覇なるか?
お正月の風物詩である「ニューイヤー駅伝2024」。全国の予選を勝ち抜いた41チームが、実業団日本一をかけて競い合う!
詳細な情報が満載のカラー選手名鑑や大会全記録など観戦必携の公式ガイドブック(オールカラー)。
【主な内容】
・特集 学生駅伝を彩ったランナーの現在地
・この選手に注目!
・出場チーム紹介&選手名鑑
・ユニフォーム図鑑
・コースガイド
・大会展望
・2023年長距離種目別日本ランキング
・大会全記録