暴れ川に挑んだ戦国武将①

水を治める先人たちの決意と熱意、技術に学ぶ 【佐々成政編】

文・緒方英樹(理工図書株式会社顧問、土木学会土木広報センター土木リテラシー促進グループ)

本能寺の変が、豊臣秀吉と佐々成政の明暗を分けた!

 今から440年ほど以前、越中(富山県)の暴れ川・常願寺川(じょうがんじがわ)の治水に初めて取り組んだ戦国武将がいました。悲運の武将とも言われる佐々成政(さっさなりまさ)です。

 成政は、1536(天文5)年1月、豊臣秀吉と同年同月、同じ尾張に生まれたと言われ、同じ主君・織田信長に仕えました。貧しい百姓の出ながら、機知に富んだ世渡りで頭角を現していった秀吉に対し、名門・尾張比良城に生まれた成政は、信長の親衛隊筆頭に選ばれるほどの豪傑でしたが、二人のたどった生涯は対照的に明と暗が分かれていきます。

 命運を分けたのは、本能寺の変でした。明智光秀の謀反は、ポスト信長をめぐる柴田勝家と羽柴秀吉のバトルに火をつけます。どちらにつくか苦渋の選択を迫られた成政でしたが、結局、荷担した勝家は敗れ、秀吉の軍門に服すこととなりました。

越中の川千本

 「越中の川千本」。かつて人は富山県のことをそう称していました。

 富山県は、北アルプスの立山連峰などの山岳地帯からゼロメートルの平坦地まで標高差が大きい地勢で、その急勾配のため、北から黒部川、常願寺川、神通川、庄川など暴れ川が多く、古来より洪水など増水時の水害に悩まされてきました。山から落ちてくる川は扇状地の田畑を潤す一方で、土石流を伴う幾たびもの氾濫が、この地域の人々に水害のトラウマを植えつけてきたのです。
 標高3000㍍級の山々と水深1000㍍の海による「高低差4000㍍」の地形は、実にダイナミックな美観を有し、北アルプスの山々から注ぐ豊穣の海の産物は多種多様な幸をもたらしています。

 一方、古来より地震や大雨により出水した常願寺川などの河川は、沿村に甚大な被害をもたらしてきました。県下最大の河川である神通川でも、藩政時代に46回、明治時代以降も50回以上の大洪水に見舞われています。今も県全体の約4割の人口が平野部に集中していますが、そうした流域に住んできた人々にとっては、自然の恩恵と脅威を清濁併せのむ覚悟の中で生きてきた歴史を背負っていると言えるでしょう。

 そのなかでも「暴れ川」の異名をとる常願寺川について、「これは川ではない、滝だ」というデ・レイケの有名な言葉がありますが、史料として残されておらず、デ・レイケの視察に同行した富山県土木技師・高田雪太郎が記した「川ト言ハンヨリハ寧口瀑ト称スルヲ允当トスベシ」が出所とも言われています。いずれにせよ、源流の山間部から河口までは約3000㍍もの標高差があるのに、その長さは56㌔と短い世界一の急流河川です。大洪水が流域に与える被害は甚だしく、「川の氾濫がないことを常に願う」思いを込めて、地域民が名づけたとも伝えられています。

常願寺川にはじめて築いた大堤防「佐々提」

 1580(天正8)年、常願寺川が富山城下一帯を蹂躙(じゅうりん)した翌年、一人の戦国武将がこの地に入りました。織田信長が越中の守護として送り込んだ佐々成政でした。

 『常願寺川沿革誌』(建設省北陸地方建設局)から当時の常願寺川を見てみると、度々の洪水で家屋漂流し、人馬も溺死したとあります。大水が出ると馬瀬口のあたりで土手が切れ、 富山城下を水びたしにすることが多かったようです。そこで成政は、堤が切れた中流の馬瀬口に出かけ、城下を守るために石堤を築きます。これが「佐々堤」です。

 成政は、みずから陣頭に立って、三面玉石張りの大堤防を築きました。三面玉石張りとは、堤防の天端、両のり面すべてを石で被った越中初の川筋堤防のことで、この霞堤(不連続堤防)は、川下を守るためにいくつも築かれたということです。

 この時の様子が、『明治以前土木史』(土木学会)に記されています。

 「当時成政は、日々馬を此地に進めて工事を指揮し、巨石に自己の氏名を刻みて之を河底に沈め、其の上に二五間の堅固なる石堤を築造せり」。

 幅45㍍の大堤防が想像できます。これが、常願寺川に堤防が築かれた始まりでした。この「佐々提」は、度重なる洪水で大部分が土砂等で埋まってしまいましたが、現在、富山市(旧大山町)馬瀬口の常西用水の川底に、石積み堤防天端部の一部が見られます。さらに成政は、洪水で堤防を破ってできた支川に「鼬(いたち)川」と名づけ、両側に堤防を築き、流域原野を開墾し、鼬川の灌漑(かんがい)によって穀物を育てました。今も富山市街をゆったりと流れる鼬川。小説『螢川』(宮本輝)や映画の舞台となりました。※写真は成政が築いたとされる「佐々堤」=富山市馬瀬口で

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