昆虫食が今、食料問題を解決するカギとして世界の注目を集めています。
日本では、一部地域で昔から食べられてきた伝統食でもあります。昆虫食って、一体どんなものなのでしょうか。「おいしい昆虫記」(ナツメ社)の著者で、日本一昆虫を食べているという佐伯真二郎さん(35)に話を聞いたんジャー!【長尾真希子】
◇昆虫食にはどんなものがあるの?
昆虫食への関心が高まったのが、昨年5月に「無印良品」を展開する「良品計画」がコオロギパウダーを使った「コオロギせんべい」をインターネット限定で発売したことです。コオロギの粉末パウダーを練り込んでいるせんべいは、「えびせんみたいで食べやすい」と話題になり、その日に完売しました。今でも、ネットストアと店舗で売り出すたびに、完売する人気だそうです。
12月には敷島製パンがコオロギを原材料にした新ブランド「Korogi Cafeシリーズ」として、フィナンシェ(お菓子)とバゲット(パン)をネット限定で発売しました。広報担当者は「予想以上の売れ行きと反響で驚いています」とコメントしています。今年7月ごろには、コオロギパウダーを使ったパンづくりを楽しみながら、昆虫食など未来の食についても考えることができるというパンキットの発売も予定しています。
そのほか、昆虫食レストランや昆虫食の自動販売機も登場するなど、昆虫食業界は、少しずつ活性化。今までは、罰ゲームに登場するなど、ゲテモノ扱いだった昆虫食動画サイトやテレビ番組でもグルメの一品として紹介されるようになっています。
◇なんで今、昆虫食が話題なの?
2013年にまとめた報告書で国連食糧農業機関(FAO)は、世界の人口が50年には90億人に達すると推定されるなか、食料不足を解決する「有望な食材」として昆虫食を提案しました。飼育に必要なエサや排出する温室効果ガスが、牛や豚の家畜よりも少なく、短期間で育つため、環境にやさしいうえ、栄養価も高いと指摘したのです。
すると、世界各国で昆虫の食用化の研究が加速し、15年からヨーロッパ連合(EU)では新しい食材「ヌーベルフード」として審査が始まり、いくつかの国では販売も解禁されました。いまでは昆虫食の商業化が世界に広がりつつあります。
一足遅れて、日本でも、昨年、農林水産省のフードテック官民協議会が設立されました。民間企業や研究機関と行政がタッグを組み、食料の安定的な確保など食料問題の解決に向け、安全性に関するルールやガイドラインづくりの検討も始まっています。
◇栄養はある?
昆虫食は、良質なたんぱく質や脂肪のほか、亜鉛や鉄などのミネラルも豊富です。特別な栄養素がたっぷり、というよりは、栄養バランスの良さが特徴です。コオロギは豚肉と同じぐらいの栄養バランスと評価した論文もあります。
これから注目されそうな成分としては、植物とは異なる食物繊維です。昆虫の殻に「キチン」という成分があり、ヨーグルトにコオロギの粉末を入れた実験をしたところ、何も入れないヨーグルトより腸内細菌の状態が良くなったとの報告もあります。
◇味はどうなの?
今まで食べた昆虫は421種類にのぼるという佐伯さんに、日本でも手に入りやすいおいしい昆虫トップ3を教えてもらいました。
1位は、トビイロスズメの幼虫です。「ゆでると枝豆のような香りがあり、食感はまるでウインナーのようです」2位は、トノサマバッタの成虫を挙げました。基本はゆでるのがよいそうですが、200度の油でサッと揚げると、トウモロコシのような香りがするそうです。ちなみに「卵を抱えたメスは身が詰まっていておいしい」とのこと。そして、3位アブラゼミの幼虫です。ナッツの香りがして、食感は鳥のむね肉のようだといいます。
◇注意する点はあるの?
初めての人向けに「昆虫食の注意7か条」をつくった佐伯さんは、「昆虫を食べてみたいと思うことは決して、変なことではありません」と話します。
しかし、昆虫だけでなく、野生の生き物は安全に食べる知識と手順が必要です。特に昆虫はたくさんの種類があり、食べられる昆虫、おいしい昆虫は図鑑にも書いてありません。新しい昆虫を日々味見している佐伯さんは、昆虫を食べる時には必ず、安全性などについて論文を調べているといいます。変な味がしたら、味を見てから吐き出すようにしているそうです。
通販などで売られている昆虫食品は、安全に食べられるよう管理されていると考えられますが、アレルギーの注意書きをする製品もあります。野外の昆虫はむやみに食べずに、大人の人と話し合って、「食中毒の知識を踏まえて、安全に食べられるかをしっかり調べて、説明できるようになってほしい」と佐伯さんは訴えます。(2021年05月26日掲載毎日小学生新聞より)