2009年以来、14年ぶりに宇宙航空研究開発機構(JAXA)の新たな宇宙飛行士候補が選ばれました。世界銀行職員の諏訪理さん(46)と外科医の米田あゆさん(28)の2人です。日本人飛行士は、旧ソ連(ロシアなどの前身)に選ばれた秋山豊寛さん(80)を含めて14人になります。新たな宇宙飛行士には、どんなことが求められるのでしょうか。【篠口純子】
◇宇宙へ行った初の日本人は?
日本人で初めて宇宙に行ったのは、秋山豊寛さんです。1990年にTBS特派員として旧ソ連の宇宙船「ソユーズ」に乗り、旧ソ連の宇宙ステーション「ミール」に6日間滞在しました。92年にJAXAの宇宙飛行士として毛利衛さん(75)が、アメリカ航空宇宙局(NASA)のスペースシャトルに搭乗して宇宙に行きました。日本人初の女性宇宙飛行士は向井千秋さん(70)です。米田さんは、山崎直子さん(52)に続く3人目の女性飛行士となります。
JAXAに在籍している現役の宇宙飛行士は、若田光一さん(59)、古川聡さん(58)、星出彰彦さん(54)、油井亀美也さん(53)、大西卓哉さん(47)、金井宣茂さん(46)の6人です。諏訪さんと米田さんは、今後2年間の訓練を受け、正式に宇宙飛行士となります。
◇宇宙飛行士の応募条件は?
JAXAは2021年12月、13年ぶりに新しい宇宙飛行士を募集しました。より多くの人に応募してもらうため、条件を大幅にゆるめました。初めて、学歴や文系・理系の専門分野を問いませんでした。前回の募集(08年)までは、応募条件を理学部や工学部など自然科学系の「4年制大学卒業以上」としていました。これまでは技術者や医師、パイロットなど理系の専門職が選ばれてきました。
今回の応募資格は、3年間以上の社会人経験があり(大学院の修士号取得者は1年、博士号は3年の経験とみなす)、身長149・5~190・5㌢㍍、両眼とも矯正(眼鏡やコンタクトレンズなどをつけた)視力1・0以上、色覚、聴力が正常な人。身長は宇宙船の改良などによって前回募集時の条件の158㌢㍍以上から低くなり、女性も応募しやすくなりました。「75㍍泳げること」といった条件も訓練で身につけられるとして応募資格から外しました。
◇どんな試験なの?
今回の応募者は過去最多の4127人でした。健康診断などの書類審査で2266人が通過しました。0次選抜としてオンラインで英語と一般教養の試験があり、205人が通過。その後、1次試験、2次試験があり、最終選抜に男性8人、女性2人の計10人が臨みました。JAXAが1月に公開した、神奈川県相模原市にある最終選抜の試験会場は、砂や日射が月面そっくりに再現されていました。候補者は防じん服を着て歩き、月面を歩いた様子を英語で伝え、自作の模擬探査車を遠隔操作する試験を受けたといいます。
ほかの国の宇宙飛行士とのコミュニケーション能力や、狭い宇宙船で長期滞在をするための協調性が重要です。科学実験など与えられた課題をこなす能力も必要とされます。今回は、自身の体験や成果を国民に伝えられる表現力・発信力を持っているかも新たに評価されました。
◇新しい飛行士は月に行くの?
これまで日本の宇宙飛行士が活動する舞台は主に国際宇宙ステーション(ISS)でしたが、今回の選考のキーワードの一つは「月」です。人類を再び月面に送る国際月探査「アルテミス計画」が進められています。月面基地を作って、資源の開発や、そこを拠点にした火星の有人探査を目指します。日本も参加し、2024年以降に建設される月周回宇宙ステーション「ゲートウェイ」=イメージ図・NASA提供=に日本人飛行士1人を搭乗させることがアメリカとの間で決まっています。将来的には、日本人初の月面到達も見据えます。
1969年から72年まで行われたアメリカのアポロ計画で、月面に降りた12人は全員が白人男性でした。アルテミス計画では、女性と白人以外の人を最初に月面に送る計画です。JAXAの現役飛行士6人は全員男性で、女性の募集を積極的に進めました。
◇一般の人も宇宙へ行ける?
近年、民間の宇宙船で行く宇宙旅行もあります。2021年は「宇宙旅行元年」となりました。21年7月、イギリスのヴァージン・グループを率いるリチャード・ブランソンさん、インターネット通販大手アマゾン・コムの会長ジェフ・ベゾスさんの実業家2人が、それぞれの創業したベンチャー企業の宇宙船に搭乗し、高度85㌔㍍と100㌔㍍超に到達しました。9月には、アメリカの「スペースX」の宇宙船「クルードラゴン」が、実業家ら4人のみを乗せ、3日間の宇宙空間での地球周遊旅行に成功しました。12月には衣料通販ZOZO創業者の前沢友作さんがロシアの宇宙船「ソユーズ」で飛び立ち、日本の民間人で初めてISSに滞在しました。前沢さんは23年中に「スペースX」の宇宙船で月周回旅行をする予定です。
ヴァージン・グループのヴァージン・ギャラクティック社の場合、放物線を描くような軌道で宇宙に向かい、宇宙空間に数分間滞在後に地球に戻る「準軌道飛行」の日帰りで、費用は1人約6000万円です。スペースXの宇宙旅行は準軌道ではない本格的なものになり、約70億円とも報じられています。
(2023年03月15日毎日小学生新聞より)