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「ワシントン条約」採択から50年 絶滅危惧種のいま【ニュース知りたいんジャー】

絶滅の恐れがある動植物の国際取引を禁じる「ワシントン条約」が採択されてから、3月3日で50年となります。絶滅危惧種に指定後も、いまだに密猟などで減り続けている生き物もいます。野生の生き物を保護することは、人間にとってなぜ大事なのでしょうか。【木谷朋子】

 ◇ワシントン条約って?


 野生の動植物を保護するため、決められた数以上の輸出入を規制する条約です。正式な名は「絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約」といい、1973年にアメリカの首都ワシントンで開いた会議で採択(各国が合意)したので、こう呼ばれます。採択された3月3日は「世界野生生物の日」になりました。75年に発効(効力を持つこと)し、現在183か国とヨーロッパ連合(EU)が参加(締約)しています。日本も80年に参加しました。
 各国代表が集まる締約国会議を2~3年に1度開いて規制する動植物を決め、条約の「付属書」に書きます。付属書は絶滅の危機の度合いによって表のように3種類あり、合計約3万6000種が載っています。生き物だけでなく、毛皮や牙、剝製、食品などもあります。各国政府や自然保護団体などで組織する「国際自然保護連合(IUCN)」の「レッドリスト」などをもとに決められます。


 ◇レッドリストって何?


 野生の生き物を保護する政策や行動を呼びかけるため、IUCNがワシントン条約より早い1964年に初めて作った絶滅危惧種の一覧表です。年2回、最新データに基づいて書き換えています。
 きっかけは、第二次世界大戦後の開発で多くの生き物がすむ場所を失い、減っていたからです。失われつつある生き物の状況を知るため、IUCNは世界中の学者や保護団体、政府などに呼びかけてデータを集めました。そうして集めたデータを、危機的だとわかるよう赤いバインダーにとじたのでレッドリストと呼ばれました。
 現在、生き物のうち約15万種のデータを集め、すでに絶滅したものも含めて、危機のレベルを評価しています。絶滅▽野生絶滅(飼育下でのみ生息)▽深刻な危機▽危機▽危急(危機が迫っている)▽準絶滅危惧▽低懸念(絶滅の恐れが低い)▽データ不足――などです。日本など各国でも、国内版レッドリストを作っています。


 ◇条約は守られているの?


 例えばアフリカゾウは、2021年のレッドリストで危機のレベルが上がりました。ワシントン条約では1990年から、輸出入が原則禁止です。しかし、工芸品や薬の材料になる象牙が目当ての密猟や違法な取引が後を絶たず、急速に数が減っているのです。昨年11月の締約国会議では、各国で対策を強めるべきだとして、象牙の国内取引禁止を求める決議案が出ました。しかし、反対する国もあり否決されました。
 日本も規制に取り組んでいますが、一方で象牙製品が国内で出回っていて、各国から批判されています。すしネタで人気のクロマグロも規制対象ですが、日本は世界のクロマグロの90%を消費しています。クジラや、フカヒレやかまぼこの材料になるサメでも厳しい目を向けられます。日本に限らず保護や条約を守ることと、文化の両立は難しい課題です。ジャイアントパンダでは条約を守るため中国が日本に「貸している」という形をとり、生まれた子も中国のものです。東京・上野動物園のシャンシャンが21日に中国に帰るのには、そうした事情があります。


 ◇絶滅危惧種はどれだけいる?


 IUCNが昨年12月に発表した最新のレッドリストでは、約4万2000種を絶滅危惧種(深刻な危機、危機、危急)と評価しました。調査された約15万種のうち、約28%に当たります。特にカエルなどの両生類は41%、サメやエイ類は37%、針葉樹は34%、哺乳類でも27%が絶滅危惧種です。
 リストの書き換えのたびに評価は変わります。アワビや、卵が「キャビア」という高級食材のチョウザメは昨年、絶滅危惧種になりました。絶滅の恐れがある生き物の約3割は、乱獲などで絶滅の危険性がさらに高まっているとも言われます。一方、クロマグロなど、対策が進んで危機のランクが下がる生き物もあります。
 日本版レッドリストの絶滅危惧種は3716種で、ライチョウやコウノトリ、シマフクロウ、ヤンバルクイナ、アマミノクロウサギなどがいます。捕獲や販売などは原則禁止です。日本国内の状況にもとづくので、IUCNの評価と一致しないものもあります。


 ◇なぜ絶滅危惧種を守るの?


 人間の生活は、一見すると野生の動植物と無関係に思えるかもしれません。しかし、人間も生き物の種の一つで、他の生き物とつながりあって生きています。これらの生き物がバランスよく生きている状態が「生物多様性」です。
 例えば、日本ではオオカミが絶滅したことで、シカが爆発的に増え、農作物に被害が出たり、森の生態系が崩れて、美しい森が荒れたりしてしまいました。
 木々は光合成によって温室効果ガスの二酸化炭素を吸収します。森が減れば、そのぶん吸収量が減り、温室効果ガスが増えて地球温暖化が進んでしまいます。また森が荒れれば、山の保水力が落ち、土砂崩れなどにもつながります。
 このように、一つの種の絶滅で生態系のバランスが崩れると、人間にも大きな影響を及ぼします。ワシントン条約は、生き物を絶滅から守り、「持続可能な利用」を実現する力が試されています。(2023年02月15日掲載毎日小学生新聞より)