【ニュースがわかる2024年10月号】巻頭特集は「発明が世界を変える」

世界遺産条約50年 未来に伝える人類の財産【ニュース知りたいんジャー】

世界遺産条約ができてから、今年で50年になります。貴重な文化財や自然環境を「人類共通の財産」として保護し、未来へ伝えていくのが目的です。世界には1000件以上の世界遺産があります。条約を作ることになったきっかけや、今の姿を調べてみました。【篠口純子】


◇どうして条約ができたの?


 1972年11月16日にユネスコ(国際連合教育科学文化機関)の総会で、世界遺産条約が採択されました。地球の長い歴史の中で生まれ、受け継がれてきた自然や建造物、遺跡などを「人類共通の財産」として世界遺産に登録し、保護する国際条約です。
 きっかけは、60年に始まったエジプトのアスワンハイダムの建設でした。世界一長いナイル川にこのダムが完成すると、古代エジプト文明の遺跡、アブシンベル神殿が水没してしまう危機に直面しました。ユネスコが遺跡の保護を国際的に呼びかけ、神殿は移築されました。神殿は周辺の他のヌビア遺跡と共に79年に世界遺産に登録されました。


◇どうやって決めるの?


 世界194か国(今年5月現在)が条約に参加しています。各国は新たな世界遺産候補を「暫定リスト」に載せ、その中から準備ができたものを選んでユネスコに推薦書を提出します。一つの国が推薦できるのは、1年に1件だけです。ユネスコの依頼で専門組織の「国際記念物遺跡会議(イコモス)」や「国際自然保護連合」が詳しく調査をします。その上で毎年6~7月ごろに開かれる「世界遺産委員会」(委員は21か国)で話し合い、「登録」、「情報照会(追加情報の提出)」、「登録延期(推薦書の出し直し)」、「不登録」の4段階で評価を下します。「不登録」となると、再挑戦ができないため、専門組織の評価次第で各国が推薦を取り下げることもあります。
 世界遺産には、人類がつくり上げた「文化遺産」、地球の歴史や動植物の進化を伝える「自然遺産」、両方の特徴を備える「複合遺産」の3種類があります。世界には文化遺産897件、自然遺産218件、複合遺産39件の計1154件があります。


◇登録が取り消されることもあるの?


 都市開発や戦争、自然災害などで遺産の価値が損なわれると、登録を取り消される場合もあります。危機に直面している遺産は「危機遺産リスト」に記載され、危機を取り除く努力をしなければいけません。危機的な状況を抜け出したと判断された場合には、危機遺産リストから外されます。現在、危機遺産リストには52件記載されています。
 これまでに登録を取り消されたのは3件。2007年に中東オマーンの「アラビアオリックスの保護地区」、09年にドイツの「ドレスデン・エルベ渓谷」、最近では21年にイギリスの「リバプール―海商都市」が登録を取り消されました。


◇日本の世界遺産は?


 日本は1992年に条約に参加しました。翌年、法隆寺地域の仏教建造物(奈良県)▽姫路城(兵庫県)▽屋久島(鹿児島県)▽白神山地(青森)、秋田県)――の4件が、日本で最初の世界遺産として登録されました。現在、日本では文化遺産20件、自然遺産5件の計25件が登録されています。さらに、暫定リストには、「古都鎌倉の寺院・寺社ほか」(神奈川県)▽彦根城(滋賀県)▽「飛鳥・藤原の宮都とその関連資産群」(奈良県)▽「金を中心とする佐渡鉱山の遺産群」(新潟県)▽「平泉―仏国土浄土)を表す建築・庭園及び考古学的遺跡群」(岩手県)、登録遺産の拡大)――の5件が載っています。
 政府は今年2月、「佐渡島の金山」の名称で推薦書をユネスコに提出しました。しかし、推薦書は十分ではないと指摘され、2023年の登録は難しくなりました。政府は推薦書を修正し、9月29日に再提出しました。今後、正式版を来年2月1日までに提出し、24年の登録を目指します。


◇登録されるとどうなる?


 世界遺産に登録されると、どんな利点があるのでしょうか。文化遺産などについて詳しい桜美林大学リベラルアーツ学群の金子淳教授に課題を聞きました。「人類共有の財産を登録することで守ることが、世界遺産の原点です。登録の利点は、保護につながっているかどうかで判断されなければなりません」と話します。登録されると観光客が増え、地域の経済がうるおいます。一方で、人が増えすぎて「過剰利用(オーバーユース)につながり、結果的に価値を損なうことになれば、本末転倒です。不幸なことに、そうした世界遺産は、世界中にいくつも存在しています」。
 登録は、遺産の価値や保護の必要性について住民の意識を高めることや、保護のための経済的な仕組みができる可能性にもつながると金子さんは言います。「最終目標は、世界遺産という仕組みが不要になることだと思います。貴重な遺産の価値にみんなが気づき、自分たちの力で保護しようと考え、経済面も含めて実際に行動に移せるようになれば、世界遺産は使命を果たしたと言えるでしょう」

(2022年11月23日毎日小学生新聞より)